1年目の大成功の余熱がまだ冷めない2000年11月、またA近代美術館購買担当の女性が桐生にやってきた。ニューヨークで人気が沸騰したともいえる松井ニット製のマフラーだが、同じ柄のマフラーを2年続けて並べていては飽きられる恐れがある。次のデザイン、2001年モデルの商品企画を相談するのが目的だった。
智司社長、敏夫専務の2人はこの1年、大成功に酔って漫然と過ごしていたわけではない。A近代美術館にいわれるまでもなく新しいモデルが必要だと考え、新しいマフラーの開発に余念がなかった。この時生まれたのが、それまで試作を繰り返していた「毛混リブ」のマフラーである。アクリル70%、ウール30%の糸でリブ編みしたもので、いまの松井ニット技研の中核商品となっているのはご存じの通りである。
リブ、とは肋骨のことだ。表面に凹凸で縦縞が出来る編み方で、出た部分を肋骨に見立ててこう呼ぶ。この、普通はセーターの袖口などに使われる編み方をマフラーに取り入れ、1年近い時間をかけてマフラーにピッタリの編み方にまで仕上げたのは智司社長だった。
これも仕事を面白がる「凝り性」の性格だから生み出せた工夫である。従来の混紡マフラーに比べ、肌触りの柔らかさが一段と増した。横に自在な伸縮性も特徴だ。
そして、混紡にしたことで得られた何よりの特徴は色数の多さである。天然素材のウールは使える染料が限られるため色数が限られる。それに、発色も鈍く、華やかな色は出にくい。それに比べれば化学繊維のアクリルとウールを混紡した繊維は染料とのなじみがよく、目が醒めるような色にも染め上がる。ウールだけとはひと味も二味も違ったデザインが出来るのは、松井ニットのマフラーを愛用していただいている方々にはお馴染みなのではないだろうか。
「縦縞でリブ編みのマフラーなんて見たことがありません。これ、とっても面白い」
1年前のウールマフラーに続いて、彼女はこの毛混リブにもすっかり魅せられたようだった。狙いは的中した。2人は彼女にそう言わせたくて開発してきたのである。
編み方は決まった。あとはデザインである。彼女は
「色の選択、デザインはA近代美術館でやる」
との原則を、この年も守り通した。彼女が選んだ色は、黒、赤、ブルー、グリーンの4色だった。A近代美術館のテーマカラーだという。この4色を使い、リブ編みの縦縞を活かしてストライプのマフラーをデザインする。企画会議をリードするのは、まだA近代美術館だった。だが、智司社長、敏夫専務も数々の提案をした。デザイン会議は夕方まで続いた。
写真:リブ編みの拡大写真です。