【二刀流】
下山縫製が、織物と編み物(ニット・カットソー)を縫い合わせる仕事を始めたのは2015年前後のことだった。
「やってくれるところがない。おたくなら出来るんじゃないか?」
と、アパレルメーカーに頼まれたのである。
縫製業は細分化が進んでいる。縫うのが厚い生地なのか、薄い生地なのかで使うミシンが違う。設備資金に乏しい中小零細企業はあれこれのミシンを備えるゆとりがない。勢い、「専業」になりがちだ。
さらに、編み物用のミシンは全く別物だ。織物は伸びないから、ミシンの上糸と下糸をからませて縫い合わせて固定すればいいが、編み物は伸縮する。生地の伸びにあわせて編み目も延びなければならない。そのため、上糸と下糸をほかの1、2本の糸で絡め、ゆとりを持たせなければならないのだ。専用のミシンがいる。だから、織物専業、編み物専業と分かれていることが多い。
織物で薄い生地専門だった下山縫製に
「カットソーもやってくれないか」
とその数年前に声をかけたのは東京の大手アパレルメーカーだった。織物と編み物を合わせた縫製を依頼される数年前のことである。それまで編み物専業の縫製屋に出していた仕事を
「安い仕事は引き受けない」
と公言し、しかも編み物は手がけたことがない下山縫製に頼みたいというのは、それまでの仕事ぶりを高く買っていたのに違いない。
おかげで、下山縫製は織物、編み物の両刀遣いになった。
下山縫製は織物も編み物も手がけている。だったら、ほかで断られた織物と編み物を縫い合わせることが出来るのではないか? と依頼者は期待したのだろう。何でも、上半身は織物で腰から下が編み物のワンピース、前は織物で背中が編み物のポロシャツなど、それまであまりなかった製品を売り出したいのだという。
織物、編み物それぞれの縫製は自家薬籠中にある。だが、伸びない織物と、縦にも横にも伸びる編み物をどうやったら縫い合わせることができるか? 2枚重ねてミシンにかけたのでは、直線縫いをしても編み物だけが伸びて辻褄が合わなくなるのは目に見えている。
試行錯誤が始まった。まず、生地の始めと終わりを仮縫いしておく。その間に短い間隔で印をつける。織物と編み物に付けた印がずれないように縫えば大丈夫なはずだ。
が、そうたやすくはなかった。やっぱり編み物が伸びた。じゃあ、印をつける代わりにまち針で仮止めしたら? いや、まだ伸びる。だからミシンの押さえのバネを調整した。滑りのいいテフロン加工をした抑えに取り換えた。生地を自動的に送るための送り歯をゴム製のものにした。糸にかけるテンションもいじった。糸も滑りがいいシリコン加工したものを使ってみた。
「何とかうまくできるようになるまで、さあ、半年ぐらいかかったでしょうか」
と下山光政社長はいう。
ほかにやってくれるところが見付からない、と頼み込まれた仕事である。織物とニットを重ねて縫い合わせることが出来るようになった下山縫製の仕事は増えた。
だが、「技」に完成はないようだ。
「織物も編み物も様々な特殊加工をしたものが増えて、そのたびに調整を繰り返さないとうまく縫えないんです。ええ、工夫の連続です」
下山縫製は今日も技を磨き続けている。
写真:縫製作業に取り組む下山光政社長