「シルク、3㎜、三巻」は、布目との戦いでもある。布は経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が交差して織り上げられている。この経糸、あるいは緯糸に沿って正確に切り離すことから作業が始まる。
下の図で、黒い線が糸、赤い線が切断線とする。右図のように縫い目に沿わずにハサミで切り離すと、布目が斜めになったところを折りたたむことになり、シルク地では生地が暴れて正確な三巻ができない。だから、左の図のように、経糸、あるいは緯糸に正確に沿って切り離す必要がある。
このため、オールシルクの生地の裁断にはハサミを使わない。端に切れ目を入れ、1本の緯糸、あるいは経糸に沿って手で裂く。
それが終われば、生地の端を三つ折りにし、時にはアイロンも使いながら三巻を作る。ここまで終わって、やっとミシンでの作業になる。
普通に縫ったのでは縫い終わりが揃ってくれないことは前に書いた。これを防ぐため下山縫製は様々な手を編み出した。
基本はミシンの調整である。上から生地を押さえつける「押さえ」は、できるだけ滑りのいいものにとりかえる。生地を自動的に送る「送り歯」の材質も考えなければならない。金属製がいいのか、プラスチックか、ゴムか。
3層になった生地がずれないよう、まち針も活用する。慣れれば生地にいくつもの印をつけ、一つ一つの区間でずれが出ないように気をつけながら作業を進める。スカーフなら、長さがおよそ1.8m、幅が80㎝ほどだから、三巻加工をする長さは約5mになる。4辺を加工するだけで、加工賃は2000円前後になる。
「それに、化繊やコットンの生地で、少なくとも1万枚は縫ってみてやっと、何とか『シルク、3㎜、三巻』ができるようになるんだから、ほかに引き受けるところがほとんどなくても仕方ないわな」
これだけの手間とコストをかけるから、高価なスカーフになる。
「うん、三巻にすると軽いし、きれいなんだ。シルクのいいものは端を三巻にするのは、まあ常識なんだよ」
と下山会長はいう。
お手元に、ブランドもののスカーフがあったら取り出して4辺の三巻加工を見ていただきたい。みごとな仕上がり! とお感じになったら、それは下山縫製で加工したものかも知れない。
写真:下山湧司会長を真ん中に、妻麗子さん(右)と光政社長