「交付決定通知書」が届いたのは6月だった。大わらわの改装工事が始まった。文字通りの突貫工事で2015年8月15日、「カフェラルゴ」が産声を上げた。
自前の準備資金ゼロ。おそらく全国に前例がない子どもと妊娠中、子育て中のママたちに客を絞り込んだカフェは、渉さんと綾子さんの無鉄砲とも思える強い願いと、2人が育てた人の輪が生み出したのである。
初日は大勢の仲間たちが開店祝いを兼ねてきてくれた。手に手に花束や子どもが使わなくなった玩具、子どもが読まなくなった絵本を持ってきてくれた。子供用のキッチンセットを気でつくってくれた友人もいた。新聞で開店を知ったのか、新しい客も加わって狭いカフェラルゴに30人ほどがギュウギュウ詰めの賑わいだった。
そして翌日からが本当の営業である。
「融資を受けたお金はほとんど改装費につぎ込んでたでしょう。いい店にするんだと思って。でも、開店の翌日になってとんでもないことに気がついたんです。材料を仕入れるお金がないんですよ!」
今日の売り上げで明日の材料を仕入れる。そんな自転車操業が2週間ほど続いた。営業が軌道に乗ったのは1ヶ月ほどたってからである。
いま「カフェラルゴ」は第1回で書いたように、盛況を続けている。開店当初は
「私もこんな店をやってみたい」
という客が前橋市や太田市からやってきたが、その後店を開いたという話は聞かない。客層を絞り込み、客の回転率を無視するという営業形態に、
「それじゃあ経営できない」
と諦めたらしい。
が、2人の「カフェラルゴ」は、その逆張りの経営に成功し、多くのママたちの心を掴んだ珍しい店なのである。