広い古民家を見つけて引っ越すか。何度も検討した。だが、先立つものがない。いまの場所で営業する限り、家族4人が暮らしていくのがギリギリだ。家賃の高いところに引っ越し、カフェ用に改装する資金なんてどこにもない。
行政にも相談してみた。何とか援助していただけないか。桐生市が掲げる「子育て日本一」のキャッチフレーズにも相応しいはずだが。
だが行政は、特定の事業者に援助することに臆病である。行政の公平性が失われるという。確かにカフェラルゴは特定の事業者だが、妊娠や子育てに悩み、不安を抱くママたちの大きな助けになっているのは事実で、行政目的にも沿うはずなのだが……。
では、安心して子育てできるモデルハウスを押し出したい工務店と提携し、そのモデルハウスで営業するか。そうすれば、「カフェラルゴ」のイメージで工務店にもプラスになるのでは。
それがダメなら、クラウドファンディングに頼ってみるか。同じ思いを抱く全国の人たちの協力を得て広い店にする……。
思案はあれこれするのだが、どれもいまひとつ踏み出せない。そんな工務店があるのか。カフェラルゴに賛同して寄付してくれる人がどれだけいるのか。
「だから、乃悠に手がかからなくなったら、店は綾子に任せて、僕は子育て関連のイベントプロモーターになろうか、とも考えるんです」
これまでもイベントは手がけてきた。子育て中の父親が7人集まり、得意技を生かして子ども連れの親子に楽しんでもらう「なないろ子育て」、子育て中のママさんたちが趣味の作品を持ち寄ってマルシェを開くた「わがままマーケット」、県外から群馬県に嫁いできたママたちが実家から送ってきた郷土自慢の食品を出し合う「県外ママ交流会」……。
ユニークなイベントには、いつもたくさんの人が集まっている。この実績を生かして事業化できないか。
「だけど、本当にやりたいのは、やっぱりカフェなんですね。店を広くして、将来は桐生市外にも系列の店を出す。こんな店が欲しいと思っているママたちは全国にいるはずなんです」
高久保夫妻は、根っからの楽天家である。進むべき道はきっと見つかるはずだ。
それが筆者の願いである。