ガラパゴスの逆襲 坂井レースの1

【遮熱カーテン】
だが、坂井レースにはほかのレースメーカーにはない製品があった。遮熱カーテンである。
坂井さんの記憶によれば、あれは2000年前後のことだった。取引はなかったが熱心に通い続けていた旭化成の営業マンが見慣れぬ糸を持って来た。

「これでカーテンが作れませんか?」

聞くと、ポリエステルに特殊な酸化チタンを練り込んだ糸だ。熱を遮るだけでなく、赤外線をはじき返すのだという。サッカーのユニフォームなどのスポーツ衣料や日傘が主な用途だった。

とっさに思いついたのは、夏用のカーテンである。日本の夏は暑い。太陽からの熱を遮るのなら需要が見込めるかも知れない。
だが、リスクはできるだけ避けたい。まず、知り合いの機屋さんに頼んで織ってもらった。確かに太陽熱を跳ね返すデータが得られた。そこで問屋を通じて売ってみたが、全くの不評だった。織ったカーテンだと透光性がなくなるのが嫌われたらしい。

「やっぱりカーテンはレースか」

と自社で編んで地元のDIY店に卸してみた。今度はそこそこ売れた。太陽からの熱を遮断できるのでエアコンの負荷が下がり、電気代が節約できるのに室内が暗くならない、というキャッチフレーズが一部の客の関心を惹いたらしい。

「編み機1台で細々と作れば間に合う程度でしたが、機械を止めるよりいい。あのカーテンがあったおかげで、最悪期を乗り切ることができました」

と坂井さんはいう。
ところが2008年、旭化成がその繊維の生産を打ち切った。

写真:工場に立つ坂井さん

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