【ガラパゴスの逆襲】
古代エジプトに起源を持つといわれるカーテンは中世以降、主にヨーロッパで発達してきた。間仕切りなどとしての機能もあったが、求められたのは室内装飾としての華麗さだった。金糸で飾り立てられた重厚で華麗なカーテンは、ステイタスシンボルの役割を果たした。
日本では江戸時代、外国の商館などで使われ始めた。和魂洋才を唱えた明治時時代になると貴族や高官の家庭には入ったが、一般に普及したのは昭和30年代になってからである。全国各地に団地などができ始め、暮らし方が西洋風になるのに従ってカーテンは暮らしの必需品となった。
だから日本のカーテンは、戦後日本の暮らしと共に進歩してきた。マッチ箱、ウサギ小屋と揶揄されてきた日本の住宅では、西洋のような室内装飾品としての役割より、暮らしを快適にする機能が求められた。遮光、断熱、防炎、UVカット、遮音、そして遮熱……。
「つまり、日本のカーテンはガラパゴス的に発展してきたのです」
と坂井さんはいう。ガラパゴスだから、カーテンの本場であるヨーロッパには何となくコンプレックスがある。日本のカーテンがヨーロッパで評価されるはずはないと多くの人が考え、輸出しようなどと考える人は皆無に近かった。
「でも、時代は変わったと思うんです。地球の温暖化で、パリでも気温が40℃を超える日が何日もある。ガラパゴスの日本で開発した遮熱カーテンをヨーロッパの人たちも必要としているのではないでしょうか?」
海外向けの販売はカタログハウスとの契約には縛られない。坂井さんは2019年から海外向けの売り込みに本腰を入れ始めた。ヨーロッパ、アルジェリア、マレーシア、ベトナム、モンゴル……。各地から前向きの反応が戻り始めた。
インドからは
「国鉄(インド鉄道)の客車、寝台車、計10万両のカーテンに採用したい」
という申し込みが届いた。2020年10月現在、新型コロナウイルスの蔓延で商談は中断しているが、騒ぎが落ち着けば坂井レースの遮熱カーテンがまずインドの列車の窓を飾るはずである。
写真:カーテンを編む糸はこんな狭い隙間を高速で流れる。糸切れを防ぐには細心の注意がいる。