熱可塑性の生地にプリーツ加工をするプリーツ機にはアイロンのような発熱体が組み込まれている。回転する円筒で中に油が入っており、プリーツ機を立ち上げるとこの油が加熱される。
円筒の中で油が加熱されると対流が起き、上部の温度が先に高くなる。安定したプリーツ加工をするにはドラムの熱は均一でなければならない。熱にムラがあると場所によってプリーツのかかり方が変わってしまうから、この熱ムラが取れるまで熱取りの紙を送りながらドラムを回転させる。どこのプリーツ加工業でもやっている作業だ。
工場には余って不要になった生地がいくらでもある。いずれは処分しなければならない。
「せっかくドラムを回転させて熱を取るのなら、紙と一緒に生地も送ってみたらどうなる?」
まったく同じものが目の前にあっても、そこに何かを見る人と、いつもの見慣れた風景だと気にもとめない人がいる。アイザック・ニュートンが、庭の木から落ちるリンゴの実を見て万有引力の法則を発見したのは科学史を彩る著名なエピソードだ。木からポトリと落ちるリンゴを見て、地球とリンゴの実の間に働く力が宇宙に満ちて星の運行も支配していることを思いつくのは非凡な頭脳である。発明、発見はふとしたきっかけが発火点になることがある。
ニュートンに例えるのは大げさかも知れないが、工場の片隅にある余り布を見て、
「ダメで元々だ。やってみよう」
と動き出した佐藤さんも、この業界にいる人なら誰もが目にしている風景に、他の人が見ない「何か」を見る特別な目を持った人だった。
この、まるで少年のような好奇心が、新しいプリーツ柄を産み出すことになる。
写真:工場での佐藤さん
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