2013年のインテリア・ライフスタイルスタイル展には4種類のネックレスを出展した。「スフィア プラス」が3種類、それに「スフィア カラー」(カラーは衿のこと)である。
名前は「スフィア(球)」である。前述したようにそれぞれ6色使ったから、客の目には18種類の「スフィア プラス」が見えたはずだ。
「スフィア カラー」は、左の作品だ。
ほかではあまり見かけない大胆なデザインで、筆者は何となく、クレオパトラのアクセサリーを思い出してしまった。
だが、片倉さんにとっては、どれもまだ完成品ではない。どこまでの評価を得ることが出来るだろうか?そんな思いを抱えての恐々の出品だった。どんな評価を受けるのだろうか?
うれしいことに、反響は予想を遙かに上回った。
「笠盛」のブースが「アトリウム」コーナーに設けられた。主催者が選ぶ一押しのブースを集めたコーナーである。「スフィア」が主催者の大きな評価を受けたためだろう。しかも、そのコーナーのど真ん中が「笠盛ブース」の場所だった。いわば、2013年の目玉ブースに笠盛が陣取ったのである。
この高い評価を、ライフスタイル展の担当者は
「インテリア・ライフスタイル展は、日本の伝統工芸と現代のライフスタイルを結びつけたいと思って開催しています。『スフィア』は刺繍という伝統的な技術をさらに進化させ、現代的なファッションセンスにマッチした、新しい『美』を創り出してくれました」
と説明してくれた。
そして、「笠盛」のブースは、押し寄せるバイヤーで文字通り溢れた。「アトリウム」にブースが設けられた効果もあっただろう。しかし、世界で初めて刺繍で3次元の美を生み出した「スフィア」に、バイヤーたちが強く惹きつけられたことは疑いがない。
次々と商談がまとまった。その勢いはライフスタイル展が終わっても衰えなかった。つられたように、「DNA」も売上が急増した。
作っても作っても間に合わない。相次ぐ注文に追い付こうと刺繍ミシンにつきっきりで生産に追われていた片倉さんは、喜びよりも驚きの目でこの騒ぎを見ていた。どうやら、この熱狂は自分たちが引き起こしたらしい。
「でも、ひょっとしたら夢でも見ているのではないか」
と、頬をつねりたくなったこともある。
熱狂の最中にいながらも、片倉さんの脳裏には、ライフスタイル展で笠盛のブースを訪れたバイヤーの1人が言った言葉がこびりついていた。
「もっと『珠』が大きいのはないのかな?」
珠を小さくしたのは、どうしても算盤玉になってしまう弱みを目立たないようにするためだった。その泣き所をつかれた気がしたからだ。
「よし、期待に応えてやろう。来年までにはもっと大きな『珠』を創ってやろう!」
どうやったらもっと大きな「珠」を作ることができるだろう?
大きな「珠」が出来れば、デザインの幅も広がる。いまの「000」に飽き足らない人にもアピールできるのではないか? そのためにはどんなデザインにしたらいいだろう?
片倉さんは案をこらしながら、「スフィア」を作り続けた。