躾を頑として受け付けない箱入り娘は、学齢期になっても一風も二風も変わっていた。
女の子は、おはじきやお手玉、おままごとで遊ぶものとされた時代である。だが、大澤さんはそんな「女の子らしい」遊びには見向きもしなかった。
女の子は綺麗な服をまとった人形が好きだというのが世間の通り相場である。両親は
「少しは女の子らしくなって欲しい」
と願ったのだろう。大澤さんを大きな玩具店に伴い、高価なお人形さんを買ってやろうとする。だが、大澤さんは
「いらない!」
と首を振るばかり。部屋のどこを捜しても、女の子を思わせる小道具はひとかけらもなかった。
代わりにあったのは、工具類である。ペンチ、ニッパー、ドライバー、やすり、きり、ボルト、ナット、釘……。
「そんなものを集めて、ビルや橋を組み立ててたんですよ。いまでいうレゴ遊びみたいなものかしら。それとも建築士にでもなるつもりだったのかな」
友達に女の子はほとんどいない。
「紀代美ちゃん、遊ぼ!」
とやってくるのは男の子ばかりだった。呼ばれて出かけた大澤さんは、日がとっぷり暮れたあと泥まみれになって帰ってくる。
「みんなと野球してたの」
もう一つ、幼い大澤さんが熱中したものがあった。絵画である。いつ、どんなきっかけで絵を描き始めたのかははっきりしない。だが、物心がついた後は、時間があれば画用紙を引っ張り出して鉛筆、クレヨンを走らせた。