【ECO】
シャーリング用の糸のカットが済めば、シャーリング機にかけて糸を刈り揃える工程になることは前に書いた。そのシャーリング機は固定刃と回転刃で糸を刈り揃える機構に、巨大な「掃除機」を組み合わせてものである。「掃除機」の吸引力が刈り揃える糸を吸引して立たせるのだ。
そんな構造だから、「掃除機」の吸引力はできるだけ強い方が良い。糸がより真っ直ぐに立ち、刈り残される糸の長さが揃うからである。
「吸引機構に工夫をしたのは父でした」
吸引機構はシャーリング機に接続され、大きな回転翼で風を起こして糸を立てる。
「吸引力を強くするには途中のパイプを短くし、できるだけ直線状に配置することだと考えたようです」
工夫の跡はパイプの設置に見て取れる。作業場に設置されたパイプはできるだけ短く、直線に、という原則を守っている。
「ほかのシャーリング工場は見たことがないので、うちだけかどうかは分かりませんが……」
という蛭間さんは、さらに工夫を加えた。といっても、装置に手を加えたのではない。
余分な糸を刈り揃えるのだから、シャーリングからは膨大な糸くずが出る。それを掃除機なら紙パックに当たる袋で受け止めるのだが、その糸ごみは長い間、市の焼却場に持ち込んでお金を払い燃やしてきた。
「もう20年ほど前になるでしょうか。工場見学に来た小学生が『燃やしちゃうの? もったいないね』といったんです。なるほど、確かにもったいないと思いまして」
蛭間さんは再活用の道を探った。もう一度糸に戻せないかと工夫したが、様々な糸のくずが混じり合い、しかも長さもまちまちで難しく、断念した。最終的に行き着いたのは、火力発電用のペレットに加工することである。ただ燃やすより、世の中の役に立った方がいい。糸くずだけでは火力が不十分なため、プラスチックごみと混合してペレットにしてくれる会社を探し出して持ち込むようにした。
「処分料が必要で、焼却場で燃やすより割高なんですが、あの子の『もったいない』に応えなくっちゃ、と考えたんです」
糸屑も屑のままにはしておかない。蛭間シャーリングはエコ工場である。