【社外秘】
蛭間シャーリングの2階は「社外秘」である。人に見せることはほとんどない。蛭間シャーリングと取引のある機屋さんでも
「いやあ、2階に上げてもらったことはないねえ」
という人が多い。
やや自慢話めくが、筆者は初めて取材に訪れたとき、
「2階、見ますか?」
と案内していただいた。
「ただ、写真は撮らないでください」
という警告付きであった。
2階には蛭間シャーリングが独自開発したシャーリング機が2台設置されていた。
1台は蛭間さんが「緯糸カットマシン」と呼ぶ。シャーリングの準備段階であるカットを自動化した。大量処理には大きな力になる。
「もっとも、ダイヤがつながったような柄だと、つながっているところの糸も切ってしまう欠点があります。そこは人手でやらないといけません。機械は所詮機械。便利ですが限界もあります」
もう1台は自動的にベルベット調の生地に仕上げる機械である。父・清さんが開発したこの機械を「突っ切り機」と呼ぶ。
ベルベット(ビロード、ベロアともいう)は、生地から短い糸が立ち上がり、肌触りがよい。服の部分的な装飾としても使われる。持ち込まれる生地はカットする糸の止め幅が極めて短く織られており、この「突っ切り機」はカットする場所を自動で探りながら切っていく。先端が球状になったガイドが生地をわずかに抑えてカット用の糸を浮かせて切る精密な仕組みだ。
「でも、最近はベルベットの需要が減ってあまり出番がない」
と蛭間さんは少し寂しそうである。
だが、
「もっとよい仕上がりを、より効率的に」
と工夫と開発を続けるのは、きっと蛭間さんの天性である。
繊維業界の衰退が続く日本で、シャーリング業もご多分に漏れず、環境は悪化し続けている。しかし、仕上がりの高品質と納期の厳守、それを支える知恵と工夫、開発力で北は米沢から南は大阪まで顧客を広げてきた蛭間シャーリングである。何とかなる。智恵に限りはないなのだから。
写真:シャーリングからは膨大な糸くずが出る