小黒金物店 第2回 鍛接

かつては鍛接でしか作れなかった打刃物は、いまや2種類ある。複合材を使ったものと、鍛接したものである。
普及品の包丁は複合材を打ち抜き、焼き入れして研いで刃を付ければ製品になる。量産に向き、コストは下がる。
だが、鍛接だとそうはいかない。地金と鋼を必要分だけ切り出し、焼いて鍛接する。くっついたら再び熱し、叩いて包丁の形を作る。焼き入れ、研ぎはその後の作業だ。
鍛接で作れば1日4,5本作るのがが限度、と小黒さんはいう。しかし、複合材を使えば、その2倍から3倍は楽にこなせる。

だからだろう。全国に7つある刃物産地も、ほとんどが複合材を使うようになった。代表的な産地の越後三条(新潟県)の鍛冶集団には36人の職人がいて12人が国の伝統工芸士になっているが、鍛接ができるのは約半数だけである。そして、複合材を使った刃物は一般品として、鍛接でできた打刃物は高級品として販売する。

 「うちは鍛接ができる職人の比率が高い。そこから見ると、鍛接ができるのは全国でも40人はいないでしょう。えっ、桐生にも鍛接ができる人がいるのですか?」

小黒さんは、全国でも数少なくなってしまった、鍛接ができる、最高級の刃物を鍛える鍛冶職人なのである。

だが、小黒さんはなぜ鍛接にこだわるのか?

若い頃には複合材を使ったこともある。使い始めの切れ味は鍛接した刃物とどっこいどっこいだ。だから、それでもいいかというと

「長くは切れないんだね。どうしてかは分からないけど」

だから、頻繁に研がねば使い続けられない。でも、自分で鍛接して打った包丁は、少なくとも2ヶ月ぐらいは研ぐ必要はない。
小黒さんを訪れる問屋もいう。

「やっぱり、複合材より手打ち(鍛接した刃物)の方が切れるね」

「何で違うのか、私には良く分かんないんだけどねえ。地金と鋼を使っているのは同じなんだから。でも、そうなっちゃうんだ」

やっぱり、刃物は鍛接しなくっちゃいけない。70年を超す経験が小黒さんにそう語りかけるのである。

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