いつしか、農作業にも山仕事にも機械化の時代が来た。林業の衰退も甚だしい。鎌も鉈も、あの頃に比べればずっと売れなくなった。だから、ここ20年ほどは、包丁やナイフ、はさみなどを打つことが多い。
だが、小黒さんは知る人ぞ知る鍛冶職人である。
「こんなもん、作ってもらえませんか?」
石垣の隣り合った石に打ち込み、石垣が崩れないようにする金物。松や杉から薄皮をはぎ取る刃物。独特な形をした彫刻刀……。
見たことがないというと、絵を描いてくれた人がいた。話を聞くだけで作ったものもある。様々な注文が舞い込む。工夫をしながらそれを形にする。すると、また別の注文が、違った人から来る。
「みんなお客さんが教えてくれるんだ。それに、いまでも鎌や鉈がほしいってお客さんもいてねえ。機械が入っても、やっぱり細かい仕事は昔ながらの農具、山仕事の道具がいるようですねえ」
小黒さんはいま、鎌はもちろん、包丁、ナイフ、はさみ、鉈(なた)、鍬(くわ)、彫刻用の鑿(のみ)、かすがい、丸太止め……。客の注文を聞いて何でも槌で創り出す。
「鉄っていろんなところに使われるんだねえ。使い勝手も含めてお客さんに教えてもらうんだよ。こんなもん、何に使うのかなあ、ってものもあったけど、だいたいできたね。あ、鋸(のこ)と鉋(かんな)は別だよ。あれはまったく違う技がいるから私には無理だ」
だが、小黒さんはカンナも作った、私は見た、という人もいる。
「いま考えると、最初に鎌作りをみっちり仕込まれたのが良かったのかなあ。鎌ができれば、たいていの刃物は作れてしまうんだね」
作るものは様々に変わったが、一つだけ絶対に変えぬものがあった。「鍛接」である。
小黒さんは修業時代に身につけた「鍛接」の技術を磨き続けることで、いまでは全国にほんのひと握りしかいなくなった、本当の打刃物を生み出す鍛冶屋になった。
小黒金物店の休みは日曜日だけ。さすがに元日は休むが、あとは盆も正月もない。世間が盆休み、正月休みに入る直前に
「うちが休んでいる間に、これ、研いでおいてよ」
と注文が入る。そうか、仕事が休みの間にやってあげないと休み明けに仕事ができなくなるんだな、と引き受ける。休みたくても休めない。
毎日、朝8時には店の横に作った鍛冶場に入り、今日も日が暮れるまで鉄との格闘を続けている。