鉈は片刃である。鉈の平らな方に薄く鋼が乗っており、あとは地金だ。このような構造なので地金の上に鋼を薄く貼り付ければよい。地金に鍛接剤を振りかけたら、同じ温度に熱した鋼を上からかぶせ、左手の「つかみ」で金敷に乗せて槌で叩く。温度が下がり、赤みが消えたら再び火炉に突っ込んで加熱する。2回目は1回目ほどには温度上げず、引き出して叩く。この作業を、徐々に温度を下げながら数回繰り返す。「仮付け」という工程だ。
小黒さんによると、この工程が仕上がりを決める。難しいのは火炉から取り出すタイミングで、こればかりは「熟練の技」というしかない。何でも、コークスから上がる炎の色で判断するのだそうだ。鉄と鋼がしっかりくっついたかどうかも、長年の経験がなければ見極められない。
この工程で何度も失敗を繰り返した。失敗すれば捨てるしかない。自分にもできるようになったと思えたのは、槌を持ってから10年ほどたってのことだそうだ。
「というけどね、いまでも、そうだな、理想の半分ぐらいしかうまくいってないけどね」
仮付けができたら、今度は「本付け」作業に入る。とりあえずくっついている鉄と鋼をしっかりくっつけるのである。すでに鉄と鋼が一体化した金属を再び火炉で熱し、今度はスプリングハンマーでゴッツン、ゴッツン、ゴツゴツゴツゴツと叩く。人が握るハンマーの何倍もの力で叩いてやるのだ。叩いていると、薄皮のような黒いくずが金属からはがれ落ちる。酸化被膜と鉄に含まれていた不純物だ。
同時に、「火造り」の作業にも入る。本付けをしながら、金属の形を徐々に鉈に近づけていく作業である。スプリングハンマーで叩いて伸ばし、全体を平らにしながら細長く伸ばし、形を作っていく。冷えたら火炉に戻し、また叩く。これも徐々に温度を下げながらの作業で、最後は700℃程度にまでしか加熱しない。こうして何度も叩くことで不純物を追い出し、鉄の分子配列を揃えていくのだという。
この工程でも切れ味が変わる。後に説明する焼き入れより、難しいかもしれないという。
形を作るために叩く。だが、叩くと鉄から炭素分が表面からこぼれて行く。だから叩きすぎると弱くなる。
それに
「冷えた鉄は強くはたいちゃ(叩いては)いけない、ってんだよ」
という温度管理も重要な要素だ。
そんな微妙な工程である。小黒さんは
「日本刀を鍛えるのに、何度も鋼を折り返して鍛える、って書いてあることもあるけど、そんなことをしたら鋼がボロボロになるんじゃないかと心配なんだけどね」
という。
最後は300℃程度に熱し、仕上げの叩きを加える。ここまで約1時間。鉈の形が見えてきた。