「出来たよ」
1週間もしないうちに電話が来た。刃渡り11㎝、持ち手が10㎝で、鞘に収めると全長23㎝になる。白木の鞘も小黒さん手作りである。いい。
「で、お幾らですか?」
小黒さんの仕事に惚れ込んだ私は、小黒さんの刃物は値切ったりしてはいけない、と考えていた。そんな安っぽい代物ではない。だから、価格も聞かずに発注した。
といえば格好いいが、
(ウインドウに入っていたナイフは6000円~8000円程度だった。高くても1万円かな)
程度の計算はしていたのではある。
ところが、予想外の返事が戻ってきた。
「あ、いいよ。それ、使って。私、あれだけいってもらうと、使ってほしいと思うんだわ」
ん? ただ? お金を取らない?
想定外である。想定外で、実に困る。私は小黒さん作のナイフが欲しくなり、小黒さんに労働を強いた。それが、ただで済むわけはない。ただでナイフをいただくいわれは何もない。
「いや、それは困る」
「困るっていわれたって、私も困る」
「じゃあ、店に行って娘さんに払ってくる」
「娘にも、これは差し上げるんだからといってあるからダメだよ」
ホントかな? とは思ったが、そこまで言われたら引き下がるしかない。
「わかりました。大事に使わせてもらいます」
その日は引き下がった。