「こんちは!」
小黒金物店を再度尋ねたのは5日たってからのことだ。
「おや、今日はどうしました?」
という小黒さんに、下げてきた袋を差し出した。
「これ、飲んでちょうだい。私の好きな酒なんだわ」
小黒さんは仕事を終えたあとの晩酌が何よりも楽しみだと話していた。だとすれば、この流れからすれば、私の好きな日本酒、「湊屋藤助」(新潟・魚沼の酒)を飲んでもらうしかない。そう思って注文していた藤助が、その日の昼前に届いたのである。
「いや、あんた、そんなことされたら……、せっかくあげたのに意味がなくなる」
「そんな。私だって、貰いっぱなしは困る。だから、確かにナイフは頂きました。今度は小黒さんがこの酒を貰ってくださいよ。御願いします!」
貰う方ではなく、あげる方が頭を低くして頼み込む。日本には、世界に誇る贈りもの文化がある。
当初は困り顔だった小黒のジッちゃんも、根は酒好きだ。やがて表情が緩み始めた。
「あのね、この酒は燗はしないで、冷蔵庫で冷やして飲むと美味いんです。頼んでたのがちょうど今朝届いたんで、小黒さんに是非飲んで貰いたいと思って」
ナイフの手入れの仕方などをうかがって辞去した。小黒さん、晩酌に楽しんでくれただろうか?