【相次ぐマジック】
プリーツとは、織り上がった生地にプレスをかけて入れるもの、というのが常識である。ところが、
「最初からプリーツが入った生地は織れないものだろうか?」
という思ってもみなかった注文が舞い込んだのは2010年代半ばのことだった。常識をまったく無視した注文である。普通の機屋さんだったら
「そりゃあ無理ですよ」
とにべもなく断るのが普通だろう。金子さんも一度は
「できません」
という言葉が喉まで出かかった。だが、次の瞬間、
「ひょっとしたらできかも知れないぞ」
という思いが浮かんだ。思い当たることがあったからだ。
まだ金子織物にいたときのことである。糸や織物についてすべてを知っているのではないか、という先輩の職人さんがいた。金子織物で営業を担当していた金子さんは、客から難しい注文が入ると、必ずこの先輩に相談を持ちかけていた。
ある時、その先輩がふとつぶやいた。
「おい、この糸を使ったら、プリーツのような織物が出来るよな」
先輩の手にはポリウレタンの糸があった。ポリウレタンはウレタンゴムとも呼ばれる伸び縮みする繊維である。
その先輩の言葉が頭に浮かんだのである。
金子さんは答えた。
「解りました。やってみましょう」
ヒントは先輩の言葉だけである。ポリウレタン繊維を使えば何とかなるはずだ。しかし、どう使えばいい?
ポリウレタン繊維の縮む力を使う。プリーツの折り目にするところだけ縮んでくれれば、織り上がったときにプリーツが出来るはずだ……。
試行錯誤を続けた。完成したプリーツの入った布は、織機から出てくると、ほとんど自力で小さく折りたたまれて棒のようになる。普通の織物は巻いて納品するが、このプリーツ付き織物は箱に入れて納品する。
「なんかねえ、ああでもない、こうでもないとやってるうちに出来ちゃってね」
注文主に無事納品した金子さんはさらに一歩を踏み出した。
「この原理を活かせば、編み物でもプリーツを付けられるんじゃないか?」
こうして登場したプリーツマフラーは、誰でも知っている著名デザイナーが採用した。彼のブランドで店頭に並んでいるから、目にされた方もいらっしゃるかも知れない。
マフラーだけではない。ジャケットの背中にこのプリーツを組み込み、新しい感覚のファッションを作り上げたデザイナーもいる。