布のマジシャン トシテックスの3

【もっと、もっと】
いま力を入れているのは「サステイナブル」(持続可能な)な編み物だ。といっても、長持ちするニット、というわけではない。古着、余った布を裂いてこよりにし、編み物にする取り組みである。

手がけ始めたのは古い。2000年に入った頃、京都の客が

「これ、編めまへんやろか」

と古い生地をテープ状に裂いたものを持ち込んで来た。その注文は数回で終わり、しばらく忘れていたが、もう一度見直す気になったのは最近の環境意識の高まりを見て取ったからである。SDGs(持続可能な開発目標)が国際的にも注目を集める中、

「古くなったからといって衣服を捨てる時代は終わった。再活用が時代の流れではないか」

と再び取り組む気になった。

幸い、織都桐生には着物の古着が沢山ある。それを引き取って細い紐に裂き、編み込んで新しい編み物を作る。

これが「裂き編み」

「一つとして同じものは出来ません。それに、想い出のこもった服を捨てたり、ただ仕舞い込んだりするのではなく、もう一度身につけられるということで若い人達にそこそこ人気が出まして」

織物の世界では「裂織(さきおり)」という織物がある。傷んだり古くなったりした着物を裂いたものを緯糸(よこいと)にして新しく服を作るのである。しかし、編み物の世界にこの手法を持ち込んだのは金子さんが最初ではなかろうか。さしずめ、「裂編」というところか。

客が「プードルフリンジ」と呼ぶ糸がトシテックスにはある。
フリンジとは、舞台の幕、カーテンの裾などに使われる房飾りのことで、編み上げたテープから糸を1本抜いてあの房を作る。この糸を「捨て糸」という。

「この、捨て糸を抜く作業が面倒くさくて、抜かずに何とかならないかと思いまして」

というのは、金子さんの怠け心と言うより、あの遊び心だったのに違いない。金子さんは糸を抜かず、そのままよじってマフラーに仕立ててみた。普通のマフラーの数倍の厚みがある、温かいマフラーが出来た。

何かが出来ると、もっと面白いことが出来るはずだ、と考えるのも遊び心だろう。金子さんは、それが面倒だからよじったはずのものから、捨て糸を抜いてみた。房になるはずだったものが周りに飛び出す面白い素材が出来た。これでクッションを作ったら、

「カールした毛がふさふさと全身を覆って可愛いプードルみたい!」

と客が反応したのである。

もっと、もっと。金子さんは「プードル」に止まる気はない。フリンジを編むとき、房がある部分とない分を作った。その隙間をどれくらいにしたらいいかも研究課題である。それに、どんな糸を組み合わせれば、面白い編み物になるか——。

金子さんの頭脳には出番を待つアイデアが目白押しなのではないか。

金子さんは

「私もそろそろ仕事からリタイヤする年齢ですよ」

が口癖である。しかし、筆者の耳には金子さん一流の照れ隠しか聞こえなかった。

 写真:最初からプリーツが入った織物を広げてみせる金子さん

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