チェック柄では縦のラインと横のラインが交差して「V」の列が重なる部分の処理が難しい。コンピューター任せにすると、「V」同士が重なり合い、ゴチャゴチャになってしまうことが多い。有名メーカーの衿はそうなっていた。
しかし、「中島メリヤス」製のチェック柄衿では、写真のように「V」が綺麗に並ぶ。メーカーの担当者はそこに目を惹かれたらしい。
「あ、裏側も綺麗に並んでる。チェック柄はこうでなくちゃ」
ポロシャツはポロ競技用に開発された。体力の消耗を防ぐため、選手たちは太陽が出ると衿を立てて首筋を守る。ここを陽に焼かれると体力が急速に落ちるためだ。ポロシャツの衿を立てるのには実用上の目的がある。だから、人目に触れることもあるポロシャツの衿は裏地にまで神経を行き届かせなければならないのである。
「そんなことに驚かれるとは、こっちの方がビックリしました。だって、柄を合わせるのは基本中の基本。チェックはラインの重なる部分の処理で仕上がりの8割が決まります。ところが、コンピューターのプログラムはそこまでうまくは出来ていない。だから、まず少し編んで、乱れた部分があったらコンピューターのプログラムを修正します。何度も繰り返して『これでいい』と見極めるまでは量産にかかりません」
速度が遅い手編み時代の職人さんはニットパーツを編むとき、仕上がりを目で追いながら細かな修正を加えていた。セーターやマフラーよりも面積が遙かに小さなニットパーツは、細部の差が目立ちやすいからである。だから、ニットパーツの専業メーカーである「中島メリヤス」には、細部にまで目を行き届かせる技が生き続けている。
コンピューターがなければものづくりが難しい時代になったとは言え、すべてをコンピューター任せにはしない。コンピューターが不得手なところは手作業でプログラムデータを修正する。
顧客が「中島メリヤス」に見いだしているのは、小さな専業メーカーが守り通す伝統の技と、それをいまに活かす改革の精神なのではなかろうか。
写真:編み機の前で中島敬行さん(右)と、父・繁雄さん