【ヴィンテージ】
スティーブ・マックイーンが「大脱走」で着ていた革ジャンが欲しい。
「トップ・ガン」でトム・クルーズが身につけたフライトジャケットを着たい。
時折、そんな復古ウエアが一世を風靡することがある。いや、映画にまつわらなくても、ヴィンテージと呼ばれる、かつて流行った服はいつまでも人々の心をとらえ続ける。
だからだろう、「中島メリヤス」には、
「あれと同じ衿、袖口を作ってもらえないか」
という依頼がしょっちゅう入る。
筆者が取材にお邪魔したときも、1台の編み機が吐き出している編み物があった。
「ああ、これですか。あるジャンパーの復刻版のパーツです。でも、オリジナルは織物だったのを、編み物でやりたいっていうんですよ」
オリジナルの袖口は、伸縮性を出すために中にゴムを入れた織物だった。だが、最初に経糸(たていと)を張らねばならない織物では少なくとも数百mの布を織らねば極めて高価になってしまう。だから、少量生産が出来る編み物で何とかならないか。
中島敬行さんはニットっぽさを殺しにかかった。まず、素材は綿糸に決めた。編み方を工夫した。経糸と緯糸(よこいと)が交差して、それぞれが真っ直ぐ走っている織物の感じを出す。ゴムが入って盛り上がっていたところは糸を重ねて膨らませた。
「これならいけますね」
発注主が喜んでくれたのはいうまでもない。
【編み物で絵を】
いま編み物で絵を描こうと考えている。国内外の名画を編み物に写し取ってみたい。
これまでもデザイナーに求められて鳥獣戯画や伊藤若冲の絵を編んだことはある。発注主は喜んでデザインTシャツの裾に使ってくれたが、自分では満足できなかった。
経糸と緯糸を交差させる織物なら、かなり精巧に絵を写すことが出来る。織り目が小さいからだ。ところが、編み物では大きな編み目が出る。例えてみれば、織物はドットが小さなハイビジョン映像が、編み物はドットが大きな、アナログ時代のテレビ映像ができてしまう。
その編み物の泣き所を何とか出来ないか。
「いや、編み物は編み物で、制約があることは分かっています。でも私たちは限られた可能性の平野を100%活用しているのか? もっともっと出来ることがあるのではないか? と考えているんです」
中島敬行さんは、コンピューター任せで編むより、人の技が加わる手編みの方がはるかに高い可能性を持っていると信じている。だとすれば、手編みの技術を守り続ける「中島メリヤス」にしか、絵を描くことは出来ないのではないか?
「ええ、本当に絵が描けるかどうかは分かりませんが、技術の幅を広げられるだけ広げておけば、お客様の求めに応じられる幅もそれだけ広がって、うちの使い勝手が良くなるでしょ?」
写真:作業中の中島敬行さん