「もういいかな」
と判断するのは石原さんの目である。糸が少しずつ動き出した。瘤がドロッパーのU字孔に吸い込まれていく。やがて……、繋ぎ目がドロッパーを通り越した。織機はそこで止まり、石原さんは下に潜り込んで切れた糸がないか点検し始めた。
次は綜絖である。そろそろと進んできた繋ぎ目が綜絖の手前でピタリと止まった。巻取りビームの方に居場所を変えた石原さんは、手で綜絖を押し始めた。ここは綜絖を動かして通すところらしい。
それが済むと、10数本の糸が切れて漂っていた。この糸も筬を通して巻き取らなければならない。見ていると、1本ずつ綜絖の穴を通し、筬の手前で隣の経糸に結びつけ始めた。筬の隙間には4本ずつの経糸が通る。だから、切れた糸と同じ筬を通る糸は隣にあるので、これに結びつけて一緒に通してしまおうという算段なのだ。
「終わったね」
石原さんがそうつぶやいたのは、よじり作業を終えて1時間以上経ってからだった。
「難しい糸の時は、これが3時間も4時間もかかって、いつ帰れるか分からなくなっちゃうのよね」
【この仕事】
「最近、肩が痛いんだよね。腱鞘炎かなあ? 職業病だよね。ま、昔に比べれば仕事は随分減ったけど、なにせ歳だから」
いまでは仕事に出るのは1年に40日内外。
「小遣い程度にしかならないけどね」
それでも、この仕事が好きだ。
「昔はね、市外の機屋さんにも呼ばれて足利、川越、いろんな所に行ったわ。楽しかったなあ。仕事は楽しいよ。お腹が大きいときも出来たし、休んだのは産後の1ヶ月ぐらい。私、ほかの仕事はきっと向いてないんだよね」
仲間はすっかり減って寂しくなった。でも石原さんは機屋さんから仕事が入るのを待ち続けている。
写真:よじり作業が進むと、繋ぎ目が綺麗に並ぶ