「これなんか考えましたね」
と松平さんが取り出したのは市内の買い継ぎ屋さん(産地商社)に頼まれたマスクの抜き型である。写真でご覧のように極めて複雑な形だ。
「ここなんですよ」
と指さしたのは右の写真の箇所である。左の平板が鋭い角度で切れ込んでおり、その角の先に、さらに平板が伸びている。
「普通ならここは、切れ込ませた下の板を真っ直ぐに伸ばして、切れ込んだ上の板を溶接して鋭角を作るところです。ところがそう作ってみると、切り抜いているうちに溶接したところが剥がれちゃうんです。だから左の平板を曲げで鋭角を出し、その角に延びているところを溶接したらうまく抜けるようになりました」
さらに松平さんは1つの抜き型の台紙を取り出した。これも独自の工夫があるのだという。見ると、写真のように内側に向かって鋭い切れ込みが2箇所ある。
「この切れ込んだところなんだけどね。型紙の鋭角の頂点に合わせて平板を曲げると、どうしてもこの鋭角が出ないんです。実際に抜いてみると切れ込みの先の方が何となく横に広がっちゃう。それでいろいろ考えて、微妙に手前で曲げてみたらうまく行ったんですよ」
職人技とは、こうした研究と工夫が少しずつ積み重なって出来上がった山をいうのだろう。
「いや、そんな難しいものではありませんよ。仕事を始めたときは穴抜きの機械に自分で工夫した治具をつけてやっていたから、山折りと谷折りでは治具を付け替えなくちゃならなかった。始めて1年たった頃、知り合いの紹介で埼玉県行田市の曲げ屋さんからベンディングマシンの中古を譲ってもらったら、平板の向きを変えるだけで山折りも谷折りも簡単にできる。あれ以来、仕事が難しいと思ったことはありません」
写真:ベンディングマシンで作業する松平さん
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