染めに使う染料、助剤はポリエステルをよく染める一方で、スパンデックスからは落ちやすくなければならない。しかも塩素に触れても色落ちしない堅牢度が求められる。
最後に使う還元洗浄剤は染料、助剤と相性がよく、洗浄後は染料の対塩素堅牢度を上げるものが望ましい。
複雑な方程式でも、求めなければならない数値が3つなら式が3つあれば計算で答を出すことが出来る。しかし、染料、助剤、還元洗浄剤の組み合わせは解の公式がなく、加減法や代入法でも解けない連立方程式のようなものだ。未知数の一つ一つに数字を当てはめてみて、すべての数式が成り立つのかどうかを確かめなければならない、実に根気のいる作業なのである。
朝倉染布は、この七面倒くさいともいえる作業を一つ一つこなしていった。
「染色堅牢度を重視するのは、うちの会社の癖のようなんです」(同)
職場に職人魂が根付いているともいえる。手に入る限りの染料、助剤、還元洗浄剤を試した。洗浄剤は、1回の洗浄に使う量もあれこれ変えて最適値を求めた。
「例えば、普通なら1回の洗浄に3kgの洗浄剤を使うとしましょう。それは長年の経験値が生み出した最適な量なのです。それより多く使っても少なく使っても仕上がりは落ちる、というのが常識です。でも、『本当にそうなのか?』と疑い、何度も試験をして、30kgぐらい使った方が仕上がりはいい、というところまで追い込むのがうちの会社なんです。ここであげた数値は例えばの話ですけどね」(同)
朝倉染布は企業である。コストはできるだけ抑えたい。洗浄剤も、できれば最少量で済ませたい。洗浄剤の量を増やせばコストは増やした分だけ上がるからである。
それでも、コスト削減より質の向上を重視する。それが朝倉染布の「癖」だという。
そして、朝倉染布が投入した「コスト」はそれだけではなかった。
品質検査室を設け、対塩素堅牢度試験装置を導入し、社内に塩素プールまで造ってしまったのである。それも、JIS(日本工業規格)の10倍を超す濃度の塩素で染色堅牢度テストができるプールである。
「50リットルほどの小さなプールですから人が落ちる危険はありませんが、高い濃度の塩素を入れているので危険であることに変わりはありません」(同)
仕事からは絶対に手を抜かない。
朝倉染布にはそんな精神が、脈々と受け継がれている。