朝倉染布第11回 魔法の糸と撥水加工

身体の一部を隠すための水着ではなく、速く泳ぐための水着の研究は年を追って拍車がかかった。もっと速く泳げる水着を創り出せ!

激しい開発競争の中で見いだされたのが撥水加工だった。朝倉染布が一度は捨てようとまで考えた撥水加工技術が、水着の性能を飛躍的に高める技術としてにわかに注目を集めたのである。

それまでの素材では、体表の凹凸を減らすのはほぼ限界に達していた。しかし、速く泳ぐにはもっと水の抵抗を減らさねばならない。

サラサラには見えるが、水には実は粘りがある。この粘りが抵抗になって速度を削ぐ。であれば、水の粘りを減らすことができれば抵抗は減るはずだ。そんな発想が生み出した競泳用水着の素材が、ミズノの「アクアブレード」だった。水着の表面に縦縞の撥水加工をするのである。

水着の表面を性質が違う二つの物質で縦縞模様にする。そうすれば、それぞれの上を流れる水の流れが微妙に変わる。違う速さの流れの境界面できる縦の渦が水の摩擦抵抗を減らすのだ。
布の生地とは性質の違う素材。その最適な素材として選び出されたのが撥水加工だったのである。

1996年のアトランタ五輪では、選手の4分の3が、「アクアブレード」を使った英・スピード社の水着を使った。「「ハイテク水着」時代の幕が、この大会で開いた。

2000年のシドニー大会で登場した鮫肌水着は、海水中を高速度で泳ぐサメの肌の研究から実現した。撥水部分をうろこ状にしたのである。

この頃から、水着は身体の一部を隠すものではなく、身体の表面を覆うものになった。肌を水に直接さらすより、水着で覆った方が速く泳げるようになった。競泳用の水着は、「スイム・スーツ」と呼ばれ始める。

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