朝倉染布第12回 魔法の糸と撥水加工

ポリエステルの「編み物」が捨てられ、ナイロンの「織物」が素材の主役になった。新しい工夫として、ナイロンとスパンデックス、そして撥水加工を組み合わせ、次世代の競泳用水着造りが始まった。スパンデックスと撥水の加工に優れた技術を持つ朝倉染布は、いつの間にか素材メーカー、水着メーカーにとって代替できないパートナーになった。

「それは大変にありがたかったのですが、反面では苦労をしました」

と朝倉剛太郎社長は当時を振り返る。

水着用生地の加工をずっと続けてきた朝倉染布には、それまでの主役だった「編み物」専用の加工設備しかなかったのだ。今度は「織物」の加工をしなければならない。

編み物と織物。どちらも生地ではないか。どこに違いがある? と思われるかも知れないが、染色加工の視点からはまったく別物である。加工の工程がまったく変わる。

朝倉染布はまず、織物の撥水加工に適した薬剤の研究から始めた。織物になったスパンデックスを乾燥する際の伸ばし具合、熱風の最適濃度もゼロから調べなければならない。

「数年がかりの研究でした」(同)

2016年のリオデジャネイロ大会。日本水泳陣はメダルラッシュに湧いた。手にしたメダルは金2、銀2、銅4、合計8つに上った。1932年のロサンゼルス大会の12個、「前畑がんばれ!」の実況放送で知られる前畑秀子選手が200m平泳ぎで金に輝いた1936年ベルリン五輪の11個に次ぎ、北島康介選手が2つの金メダルを取った2004年のアテネ大会と並ぶ歴代3位の快挙だった。
そして、メダルを獲得した8人中5人は日本製の水着で勝ち取ったのだった。開発の努力に、やっと果実が実ったのである。

2020年の東京大会はもう目前だ。この時期になって、朝倉染布のライバルとしてスパンデックスの処理、撥水加工をしていた新潟の会社が次期モデルの開発をやめた。競泳用水着の生地を加工する会社は、国内では朝倉染布だけになった。東京オリンピックでは朝倉染布だけが日本の水泳陣を水着素材の加工技術で支える。

日本の水泳陣に思う存分活躍してもらい、前回以上のメダルを獲得して欲しい。
朝倉染布の開発陣は、今日も縁の下の努力を続けている。

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