壁にぶつかったからすごすごと引き返すのでは、前に進むことは出来ない。壁は乗り越えるためにある。
久保村さんを中心に社内で検討を繰り返した。せっかく始めた自販事業を軌道に乗せるにはどうすればいいか。浮かび上がってきたのが、
「自販事業も受注事業も本質は変わらない。朝倉染布の得意技術を活かそう」
という、思いつて見れば当たり前のことだった。
朝倉染布の得意技術を洗い直した。
生地にプリントするには、プリントが栄えるように事前に生地を白く染色する。どこでも出来ることだが、朝倉染布はインクジェットを使い始めて、プリントしやすい生地とそうでない生地があることを知った。大量に事前処理をしてきたからこそ身についたノウハウである。
インクジェットでプリントしやすい生地の販売を始めた。大量の生地をまとめて事前処理するからコストも下がる。中小の事業者に大歓迎された。
次のアイデアは、朝倉染布が何よりも得意とするの撥水加工である。最高の得意技術を自販に生かさない手はない。白や黒など無地に染め上げた生地に撥水加工をして販売した。ダンスウエアの裏生地など、結構な需要があった。
インクジェットでプリントした生地の販売も手がけた。相性のいい生地を選び、最高のプリントをしたのはいうまでもない。
「これは、小さな生地商社やアパレルメーカーに喜ばれました。小さなところは販売量が少ないため、生地をまとめて買うことが出来ません。そんな工場をいくつも束ねる形で朝倉染布が大量に生地を仕入れてプリント加工するから安くなるんです」(朝倉剛太郎社長)
自社技術の組み合わせもありだ。インクジェットでプリントして撥水加工をした生地の販売も始めたことはいうまでもない。
自前製品の販売を始めて3年目には、東京の展示会への出展も始めた。最高の加工をした製品はあっても、それを知ってもらわねば取引先が増えるはずがないからだ。小さなブースに加工済みの生地を並べた。
「私も展示会場に詰めっきりだったのですが、誰も立ち寄ってくれないんです。水をはじくとかいったって、見た目はただの布じゃないですか。布がたくさん並んでいても関心の持ちようはないですよね。これ、あと知恵ですけど」(同)
確かに、生地が並べられただけのブースには何の変哲もない。
「もっと分かりやすい展示にしなければ、とそのままで商品になるものの開発を始めました」(同)