社内でアイデアを募った。これは、と思えるものを形にした。
・ランチョンマット
・テーブルクロス
・傘カバー
・ケープ
・コースター
・アームカバー
果てはアロハシャツまで作った。2006年にはネットショップも開き、販売に力を入れた。
ところが、売れない。わずかに動いたのは傘カバー程度である。濡れた傘を持って電車に乗る時に、このカバーに納めれば他の乗客に迷惑をかけることがない。スマートな生き方を好む人たちに喜ばれたらしい。
中でも、不振を極めたのはアロハシャツだった。物珍しさかから取り上げてくれた新聞があって一時は売れたのが、逆に足を引っ張った。
「よし、これで行こう!」
とアロハシャツ用にプリントして撥水加工をした生地をつくったのが大量に残ってしまった。不良在庫である。
久保村さんは仕方なく、この生地をハンカチ大に切り取って弁当を包んだ。毎日弁当を持参する久保村さんは、水気が外に漏れないので重宝した。
「私が使って重宝するのなら、他の人たちだって重宝するはずだ」
ふと思いついた。だったら、もう少し大きくカットして風呂敷にしてみたら売れるのではないか?
「ながれ」はこうしてひっそりと誕生した。
商品ラインアップに新たに加えた「ながれ」は、しかし売れなかった。考えてみれば、水をはじくのに水を通す風呂敷がこの世にある事を知っているのは、極端に言えば朝倉染布社内の数人だけである。商品とは、まず存在することを多くの人に知ってもらわなければ売れるはずがない。
朝倉染布の最大のお家芸は、真面目に技術開発に取り組み続けてきたことだろう。そのためか、時折、ニュースを求める記者たちが取材に訪れる。
「面白いことをやってますねえ。是非書かせて下さい」
そんな言葉を何度も聞いた。だが、記者たちとの付き合いが「ながれ」を表舞台に出す助けになるとは、考えたこともなかった。
ある日、いつものように取材に訪れた全国紙の記者に、朝倉社長が
「こんなものを作りました」
と何の気なしに「ながれ」を紹介した。
「水をはじくんですが、中に水を入れて絞ると水を通すんですよ」
記者の目がきらりと光ったような気がした。
「私、大学時代に山岳部にいたんですが、撥水加工をしたその風呂敷、山にいいですね。雨に降られた時に傘の代わりに使えるし、シャワー代わりに使っても便利そう。小さく折りたためて持ち運びやすいのもありがたい。私、欲しいな」
間もなく、「ながれ」が記事になった。全国紙には波及力がある。その記事を見て、東京のキー局が経済ニュースで「ながれ」の特集を組んだ。
「ながれ」に、少し勢いが出始めた。