朝倉染布第15回 「ながれ」はいま

この年、「ながれ」はグッドデザイン賞特別賞を受けた。かつて通商産業省が創設し、いまは公益財団法人日本デザイン振興会が主催する、日本でただ一つの、デザインを総合的に評価する制度だ。というより、Gマーク制度といったほうが分かりが早いかも知れない。その中で特別賞は

「来るべき社会の礎を築くと認められるデザイン」

が対象である。1000年の歴史を持つ日本伝統の風呂敷に、超撥水という新しい機能を付け加えて使い方を大きく広げたのが審査員の高い評価を引き出した。

2011年3月11日、東日本一帯を大きな地震が襲った。強烈な揺れ、巨大な津波でたくさんの人命が失われた。いまも2500人を越える人の行方が分からない。

その直後、朝倉染布が倉庫にあった「ながれ」の在庫400枚を被災地に送ったのは、超撥水という「ながれ」の機能が被災地で何かの役にたつのではないかと考えたからだ。

それからしばらくして、岩手県の洋品店から注文が入った。仮設店舗で販売を再開した。「ながれ」は被災者の役にたつと思うので店舗で売りたい、という趣旨の説明が添えられていた。あの400枚のうちの1枚がこの人の手に渡ったのか、何か別のルートでお知りになったのか。そんな詮索をしている時期ではない。すぐに発送したのはいうまでもない。

便利な機能をうたう商品はたくさんある。だが、どうしても手元に置いておきたいのは、万が一の時に、

「これがあって助かった!」

という商品ではないか。

「ながれ」は、そんな商品の一つにまで成長したのかも知れない。

一度は捨てようとまで考えた超撥水の技術が競泳用水着の開発競争で蘇り、アロハシャツの失敗が「ながれ」を生んだ。朝倉染布の試行錯誤、あくことのない技術開発、七転び八起きの精神がそんな商品を生み出したのである。

2013年、朝倉染布はRED DOT賞を受賞した。ドイツのノルトライン=ヴェストファーレンデザインセンターが主催する、国際的なデザイン賞である。日本での高い評価を世界が共有し始めた。

日本伝統の伝統と最新技術から生まれた「ながれ」。世界中が、

「持っていて良かった!」

という日が目前に迫っているような気がする。

—完—

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