30数年前までの赤ちゃんのお尻は赤かった。赤い湿疹ができていかにもかゆそうだ。おむつかぶれである。
おむつなんてしなければお尻の周りが赤くなったり、泣き叫ぶほどかゆくなったりすることなんかないのに。いつもスッポンポンにしておいてよ。何でおむつなんかするんだ?
赤ちゃんはそう叫びたいのだろうな、というのは子育て中の親には、分かりすぎるほど分かっていた。おむつを取り替えるたびに、愛児の股間からお尻にかけて肌が真っ赤になり、ブツブツまでできているのがいやでも目に入るのだ。
「かわいそうに」
とは思う。だが、親にも事情がある。布団やベッドで寝ている愛児がおしっこやうんちを垂れ流しては、後始末に困る。それに、布団もベッドも代えはない。何らかの防御策が必要なのだ。
「ごめんね」
と心の中で謝りながら赤くなった肌を、湯で温かく湿らせたタオルで綺麗に拭き、クリームをすり込む。天花粉をはたいて洗いたてのおしめで愛児の股間をくるみ、ビニールやゴムなどで防水加工されたおしめカバーでくるみ、ボタンを留める。いま50歳から上の世代の方々の多くには、きっと記憶の片隅にそんな情景があるはずだ。
この防水素材がいけないんだろうな、と想像はつく。水を通さないからきっと中が蒸れるのだ。だが、代替手段はない。一日も早くおしめが取れてくれればこんな思いをさせなくても済むのだが、と諦めるしかなかった。