汚れが落ちるのは狙い通りである。色も、洗濯で落ちたとしても衣服としての機能に変わりはない。むしろ、その色落ち感が喜ばれたりする。しかし、撥水布から撥水剤が落ちてしまえばただの布になって水を通し、役にたたなくなる。数回の洗濯で撥水剤が剥がれ落ち、中に閉じ込めておきたい水分がしみ出すようになってはおむつカバーとしては落第である。
「もっと洗濯に強くしなければならない」
さらに品質上げる研究・開発の努力が続いた。撥水剤、架橋剤、処理工程をいろいろと変えてひたすら実験を繰り返す。そうして到達したのがフッ素系の撥水剤だった。当初使っていたシリコン系に比べ、洗濯への耐久性が1.5倍に伸びた。
耐久性が上がって、需要はさらに伸びた。しかし、仕事に追われる朝倉染布から一つの悩みだけは消えなかった。
東レと共同で作り上げた技術では、撥水剤をかなりきつい有機溶剤に溶かさなければならない。その溶剤には、第1次世界大戦で毒ガスとして使われたホスゲンの原料にもなるトリクロロエチレンが含まれていたのである。
撥水布が出来上がれば溶剤は布に残らないから、商品の安全性に問題はない。だが、撥水加工に従事する人たちのそばには、常にこの溶剤があった。加工現場にいる人たちは常に危険と隣り合わだったのだ。
(写真説明)
いまの撥水加工設備。もちろん、もう危険はない。