毒ガスの原料にもなるトリクロロエチレンは、そのままでも毒性がある。気化したガスを少しでも吸い込めば頭痛や目まいがを引き起こす。大量だと死につながりかねない。
赤ちゃんの柔らかい肌は守りたい。しかし、そのために作業員に犠牲を強いることはあってはならない。さらに、気化した溶剤が工場の外に漏れ出せば、工場近くで暮らす人たちに同じ被害を与えてしまう。
もちろん、周辺問題については最初から見通しがあった。それがなければ生産を始めることは不可能である。
「たまたま、隣の足利市の山の中に工場を持っていました。人里から遠く離れており、周りには人家が全くないところです。縁があって土地を買い取り、当時はプリント工場として使っていたのですが、工場にゆとりがあったので、空いているところに撥水加工の設備を入れたそうです。だから、周辺問題は心配ありませんでした」(朝倉剛太郎社長)
だが、工場内は別だ。従業員は危険なトリクロロエチレンが漏れ出す恐れのある建物の中で働くのである。対策として、全員にガスマスクを義務づけた。しかし、ガスマスクをすれば息苦しく、作業効率が上がらないことがすぐに分かった。このため、ヨーロッパからリブラテックスという密閉型の加工機械を輸入した。
「当時で数千万円したと聞いています」(同)
この機械の中で溶剤に溶けた撥水剤を布に付着させる。撥水加工の工程は密閉された箱の中で進む。気化した溶剤を回収する機能もあるので溶剤のガスは一切外に漏れ出さない。これで常時ガスマスクを付けるは必要なくなった。