今度は東レの技術支援は望めない。朝倉染布だけの力で立ち向かうしかない。本当にできるのか? 社内は期待と心許なさが交錯した。だが、やらなければ、この隘路を切り開くことはできない。
「当時、フッ素系の撥水剤で水溶性のものが出てきた。これなら有機溶剤を使わずに済むので試してみた。しかし、撥水性能があまり良くない。いくら安全とはいえ、これを使っていたら他社と同じ加工しかできなくなる。何とかしなければ、と思いました」
当時を振り返るのは、岩崎延道技術顧問(元取締役技術部門長)である。
岩崎さんたちは3人で社内チームを作った。ふと思いついたのは、界面活性剤の利用である。有機溶剤にしか溶けないものでも、水との親和性を高める界面活性剤をうまく使えば水に溶かせるのではないか?
長年の経験が呼び起こした「勘」ともいえる。
染色工場は界面活性剤をよく使う。会社にはいつも10数種類の界面活性剤が備蓄されている。会社になくても、メーカーに声をかければいつでも試供品として提供してくれる。付き合いのないメーカーの界面活性剤は買ってくればいい。
こうして、50種類ほどの界面活性剤を集めた。さあ、いよいよ開発である。