ある経営書によると、自分の会社にある「No.1」を探すのは,経営計画の入り口である。製品の品質の高さなのか、最新鋭の生産設備と効率的な生産システムによる価格の安さか、それともデザイン力か。
満天下に
「我が社のこれはNo.1です」
と胸を張れるものがあるかどうか。
この経営書には確か、No.1が見つかるまで、どんどん分野を細かく区分けしなさい、とあった。ネジのメーカーなら、例えばネジ全部から、ステンレスネジに狭める。それでもNo.1でなければ、ステンレスの平ネジ、とさらに狭める。それでもダメなら、1.8cmのステンレスの平ネジ、と、どんどん小さな範囲に絞る。自社の製品の何かが「No.1」と呼べるまでこれを繰り返すのである。
筆者がとある音楽ホールの支配人をしたとき、この手法を採用したことがある。
就任したとき、ホールのキャッチコピーは、
「世界で9本の指に入る音楽ホール」
であった。前任者に根拠をただすと、アメリカの音響学者が世界中のおもだったホールを調査して出した結論だという。英語で書かれたその本を見ると、最優秀に3ホール、その次の優秀に6ホールが挙げられており、その6つのホールの一つに私が任されたホールがあった。確かに9本の指に入っている。だが、「No.1」ではない。
「優秀」の6つのホールを横並びと見れば、世界で4番目の音響を誇るホールともいえそうだが、「4番目」では何とも落ち着きが悪い。そこで一覧表を何度も眺めていてあることに気がついた。ほかの8つのホールはすべて1500人以上の収容力がある大ホールである。フルオーケストラが演奏できる。しかし、我が社のホールの収容力は552人。ステージも小さく、せいぜい30人の小編成オーケストラしか乗ることができない。
「これだ!」
と私は膝を叩いた。生まれたキャッチコピーは
「世界で最も響きが美しい室内楽専用ホール」
である。
私は「No.1」を見つけた。それからのホール経営の基盤にすえた上であれこれ手を打って、たった1年間でホールの赤字を1億2000万円ほど縮小できた。同じようなことは、数多くの成功企業で試みられているに違いない。
桐生西宮神社を作り、運営してきた人々にそんな経営学の知識があったかどうかは不明だが、ここも「No.1」を持つ。とはいえ、西宮神社本社から分霊勧請を受けてできた、いわば「支社」格の神社だから、「日本一」「世界一」は本社に譲らなければならない。そこで桐生西宮神社が選んだのは
「関東一社」
というキャッチコピーだった。冒頭の写真に見るように、「関東一社」を刻み込んだ石柱まで立て、桐生西宮神社は関東で唯一の西宮神社である、と満天下に宣言して今日まで続いてきた。
ちょっと待て、と首をひねられる方が多いかも知れない。群馬県内を見ても沼田市に沼田西宮神社があるし、隣の栃木県足利市には足利西宮神社がある。東京にも、えびす、大黒の姿を描いた御神影札(おみえふだ)を頒布している神社はある。それなのに、なぜ桐生西宮神社が「関東一社」なのか?