織物で描く「絵画」 アライデザインシステムの2

【消えないチャレンジ精神】
實さんは勢いに乗った。もっと精細な織物の絵画を、もっと大きくしてやる、と心に決めたのは、實さんの中で生き続ける青年の若々しい挑戦心だったのかも知れない。

「次は襖絵に挑んでやる」

アライデザインの大きな織機

襖の寸法は180㎝×90㎝が基本である。ところがアライデザインにある織機の最大幅は60㎝しかない。

「120㎝幅の織機を入れるぞ」

昭和が平成に変わろうという1990年前後のことだった。紋紙のいらないコンピューター制御のでっかい織機が工場に運び込まれ、室町時代に活躍した禅僧の絵画師、雪舟の水墨画を写し取った。

12本の緯糸を送り出す装置

丹精を込めて設計したふすま絵はみごとに織り上がった。だが、ほとんど売れない。考えて見れば、日本の住居は欧風化が年々進んでいる。住まいから床の間が消え、欄間が消え、畳も障子もなくなりつつある。襖絵を張り付ける襖の数が年々減っていれば、ふすま絵の需要が生まれるはずがない。

「社長、帯を織りましょうよ」

やや苦境に立ったアライデザインで、そんな提案をする社員がいた。考えて見れば、アライデザインは帯機屋である。帯はずっと織り続けている。しかし、「絵画織」を活かした帯は、言われてみれば手がけていなかった。

「よし、やってみよう」

こうして生まれたのが、俵屋宗達の「風神雷神図」を織り込んだ帯である。それまでも、この絵を写した帯はあった。しかし、「絵画織」を完成したアライデザインの作品は、全く精細度が違った。それまでの帯がアナログテレビの画像なら、アライデザインの帯はハイビジョンである。頭3つも4つも抜け出した美しさで、大ヒット商品になった。

風神雷神背紋

だからだろうか、桐生が生んだ世界的テキスタイル・プランナーの故新井淳一さん、いまでも根強いファンを持つデザイナー、ヨーガン・レールさんから仕事が入り始めたのである。仕事は多忙を極めた。

写真:新井實さん

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