しかも、である。余りに糸を重ねすぎると、仕上がりが重くなる。だから、この作業をしながら色数を減らす。
「元の画像に80色使われているとしたら、少なくとも60色ぐらいまで落とします。色数を減らすのですから、当然、元の絵とは変わって来ます。変わりすぎない、元の絵の雰囲気と違和感がなく、見栄えがよいギリギリのところを探るんです」
と千夏さん。
それだけではない。色が徐々に移り変わるグラデーションの設計も2人の大事な仕事である。そのため、画像を白黒に直し、平織り、綾織り、朱子織の組合せを決める。
色数を減らし、色を作り、グラデーションを作り出す。3つの要素を同時並行で進める作業は、経験知が積み重なって固まり、ダイヤモンドのような輝きを持つようになった。
それでも、
「一つの画像をデータ化するのに、根を詰めてやっても少なくとも1、2週間はかかります」
まだまだ織機にはたどり着かない。糸を選ばねばならないのである。ポリエステルなら糸商が置いていく色見本から、コンピュータでの色作りに使った12色を選べば済むが、絹糸はその都度染めに出す。そこまで済ませてやっと試し織りだ。
「実際に織ってみると、やっぱり違うなー、というところが目について。ええ、少なくとも1、2回はコンピューターに戻ってデータを入れ直し、設計を変えます。帯だったら、3回は手直ししないと」
気が遠くなりそうな手間暇がかかって、美しい「絵画織」はこの世に生まれ出る。
和服を身につける人が減って、帯の需要はなかなか元に戻らない。いまアライデザインシステムは絵画織のブックカバー、テーブルセンター、掛け軸、カレンダーなども手がけている。だが、絵画織りを活かすには、ややキャンバスが小さすぎる嫌いがなきにしもあらずだ。
ここで、アライデザインの「絵画織」品群を見ていただこう。
これは掛け軸。続いては帯である。
日用品もある。
しかし、これで「絵画織」の魅力を表現し尽くすことが出来ているか?
「もっと大きなビジネスのキャンバスで絵画織り活かしたい」
伊知郎さんはいま、新しいビジネスプランの捻出に余念がない。
写真:新井伊知郎さん