しかし、センサーをあてにできない整経作業がある。例えば、有名なバーバリー・チェックを思い起こしていただきたい。先染めの糸でこの柄を作るには同じパターンを繰り返すことになる。1200本の経糸で1つのパターンになる場合、1200本の糸を一度に巻き取ることができれば、それを繰り返せばよい。しかし、一度に巻き取れるのは、古澤整経の場合580本だ。糸は580本出ている。だからパターンを分析し、最初は右端の46本、次は左端から144本、3度目は中央部分の80本……、などと分割して巻き取る。大量生産を前提にした整経機のセンサーは中央にあるから、どうしてもセンサーの焦点から外れる山が出てきて誤差が生まれてしまう。0.01㎜にも満たない誤差だが、巻き上がりにギャップができたり、糸同士が重なったりする。
「だから、自動と手動を選べる切り替えスイッチを付けてもらいました」
うまく巻き取れていないと判断すると機械を止め、手動に切り替えて動かす。機械に古澤さんが力を貸さねばならないのである。
糸から静電気を取り除く装置を増やしたのも古澤さんの判断だ、工場に気を遣い、加湿器をフル稼働させても、静電気を完全に抑え込むのは難しい。念には念を入れ、静電気を徹底的に取り除くためである。
整経機をコントロールするプログラムの変更まで入れれば、カスタマイズした箇所は10数カ所に上る。現場で「より織りやすい糸」を求め続ける古澤さんの指摘にメーカーも驚嘆したらしい。技術者を派遣して泊まり込ませ、
「何でもいってください」
と異例の対応で応えた。古澤整経のシステムが完成すると
「この機械で我々が学ばせていただいたノウハウ、コンピューターのプログラムを他で使いたい。許していただけないか」
と頭を下げてきた。
古澤さんが首を縦に振ったのはいうまでもない。
写真:巻き取る前の最終調整をする古澤さん