確認、確認、確認 今泉機拵所の1

【架物(かぶつ)】
布の模様を自動的に織り出すジャカード織機の司令塔は、織機の最上部に取り付けられたジャカードである。ジャカードは紋紙の穴を読み取り、どの経糸(たていと)を引き上げるのかの指令を次々に出し続ける。
だが、ジャカードがいくら指令を出しても、それを織機に伝える仕組みがなければ意味がない。この、ジャカードが出す指令を織機に伝える仕組みを「架物」という。
広辞苑第三版で「かぶつ」を探すと、「下物」「果物」「貨物」しかなく、「架物」は出て来ない。
ネットで検索すると1件だけヒットした。桐生市のホームページに「桐生織物の製造工程」があり、その11番目の工程「機拵(はたごしらえ)」の解説に「架物」が登場するだけで、他にはない。毎日布で体をくるみながら、その布が出来る過程には余り関心を払わないからだろうか。耳慣れない言葉である。
ジャカードには普通、1008本の「ワイヤリューズ」と呼ばれる針金が下がっていて、その先にJ字型の「ナス管」が付いている。大型の本板ジャカードと呼ばれるものはワイヤリューズが約1300本に増える。

薄茶色の通じ糸、通じ糸に結びつけられるのを待つ綜絖。今泉さんの仕事場は色彩あざやかだ

この「ナス管」に引っかける「通じ糸」と呼ばれる糸が「架物」の本体である。いまでは日本で「通じ糸」に使う糸を製造するところはなくなり、全てスイスからの輸入に頼っている。撚り糸と、価格がその3倍はする組紐の2種類がある。撚り糸は伸びやすく、組紐は伸びにくい。経糸(たていと)を上下に分ける綜絖(そうこう)へジャカードの動きを正確に伝えるには「通じ糸」は伸びないにこしたことはない。しかし、どちらを選ぶかは「架物」を発注する機屋さんの選択である。
織物は繰り返しの絵柄が多い。例えば幅120㎝の織物で、同じ絵柄が横に8回繰り返されるとする。その場合、1つのナス管に8本の「通じ糸」が取り付けられ、「目板」と「呼ばれるたくさんの穴(ジャカード全体から下がる通じ糸の数と同じであることはもちろんである)があけられた板の穴を通して綜絖の上につけられたカタン糸に結びつけられる。これでジャカードからの1つの司令で8回繰り返す絵柄が一度に織れるようになる。

目板の穴に通す通じ糸は絶対に間違ってはならない

この穴に通す通じ糸を1本でも間違えると織柄に傷が出来る。1008本のナス管に8本ずつの通じ糸が下がれば総数は8000本を越す。絶対に間違わないように糸を導く仕事は神経が張り詰める。
また、通じ糸をカタン糸に結ぶ際、1回結びにすると通じ糸の先端が上を向く。綜絖が上下しているうちに、この上を向いた先端が隣の経糸を持ち上げてしまう事故が起きることがある。2回結びにすれば糸の先端を下に向けることが出来るが、時間が3倍はかかってコストが上がる。収縮チューブで結び目を覆えばもっと安全だが、コストがさらに跳ね上がる。安全をとるか、安さをとるかも機屋さんにかかっている。
織機に取り付けたとき、綜絖はきっちり同じ高さに揃わなければならない。「架物」を作る仕事を機拵え(はたごしらえ)というが、通じ糸の長さ調整して綜絖を並べるのは機拵えさんの腕の見せ所だ。
機拵えさんは作業場で作った「架物」を注文主の機屋さんに持ち込み、織機に設置する。現地で通じ糸の長さを最終調整するのはいうまでもないが仕事はそれだけでは終わらず、設置した綜絖1本1本に経糸を通し、さらに緯糸を手前に寄せる櫛のような形の筬(おさ)の羽の間を通して完了する。

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