【需要減】
いま糸のメーカーは、糊付けしなくても使える糸の開発に余念がない。かつては糊がなければ切れやすくて使えなかった綿糸も、いまでは糊付けは要らなくなっている。サイジングの需要は右肩下がりで減り続け、
「もう桐生には、あと1軒しかサイジング屋さんはありません」
と浩芳さんはいう。事業環境は悪化の一途である。だからこそ、一緒に整経もできるスラッシャー・サイジング機を入れて仕事量の確保を図ったのだが、需要減の勢いはそれを上回っていた。
何とかしなければ。浩芳さんは業界の慣行を考えた。糸は5、600gから5㎏ほどを巻いたボビンで売られている。1つのボビンに巻かれた糸の長さが経糸の長さになり、数万mにもなる。しかし、そんなに大量の経糸を使う機屋さんは近傍には存在しない。だから必要な長さに切り分けて小さなボビンに一度巻き取る手間をかけないとサイジングも整経もできない。その分コストがかさむ。
「だったら、よく使われる糸を私が買い、一度に数万mをサイジング、整経しておいて、機屋さんが必要な長さに小分けして売ればいいのではないか?」
と浩芳さんは思いついた。幸い、スラッシャー・サイジング機は大量処理が得意である。その得意技を活かせば機屋さんに喜ばれるのではないか?
桐生は多品種少量生産を特徴とする。この智恵で、浩芳さんは新しい得意先を沢山掴むことができた。