【絹糸の種類】
泉織物は絹織物専業である。つまり、絹糸しか使わない。ご存知のように、絹糸は蚕が作った繭を湯煎し、糸を引き出す。考えてみれば単純な製法である。そのどこに「糸を創る」余地があるのか?
「いえ、絹糸はそれほど単純ではありません」
泉さんによると、絹糸の取り方には2つの手法がある。
1つは繭からそのまま糸を引くやり方だ。だが、繭と一言で言っても、実は部分によって性格が違う。外側と内側の繊維は固い。その中間に柔らかい繊維があり、普通はこの部分を使うが、固い糸にもそれなりの特性、使い道がある。
糸の引き出し方も糸の性格を決める。強い力で引くと繊維はピンと伸びて細く、固くなる。引く力を弱くすると中に空気を抱いた膨らみのある糸ができる。つまり、糸を引くときの力のかけ方で様々な「絹糸」が産まれる。
もう1つの絹糸の作り方は、真綿から引く方法である。大雑把に言えば真綿は重曹を入れた湯で繭を煮込み、グズグズになった繭を手で押し広げて作る。こうしてできた真綿の一部をつまんで引っ張り、糸として取り出すのだ。真綿糸、紡ぎ糸などとも呼ばれ、空気を含んででフンワリし、糸に凹凸があるのが特徴だ。
そして絹糸は、フィブロインという繊維本体をセリシンというタンパク質が覆っている。そのままだと手触りがゴワゴワし、染料の乗りも悪い。そこで精錬という作業でセリシンを落とすが、どの程度落とすかで違った性格の糸ができる。
撚りをかけるかけないか。かけるとしてどの程度の撚りを選ぶか。
そして、産地がある。国産の絹糸、中国産、ブラジル産、タイ産……。産まれ育った国で絹糸は違った個性を持つのである。
「そんなですから、糸屋さんの糸見本には膨大な種類の絹糸があります。でも、いろんな糸を試してみましたが、織り上がりがいまひとつ納得できない。だったら、自分で糸を創るしかないかと」
こうして泉さんの糸創りが始まった。21世紀初頭のことだった。