【来年も】
手応えを感じ始めた長谷川さんに、さらなる喜びが追い打ちをかけた。三井不動産の担当者が今度は桐生を訪れたのである。2022年暮れのことだ。
「驚きました。コレド室町3のあの場所で、長谷川さんほど売った店はこれまでありませんでした」
東京では全く実績がなかったナガマサが一番売った? 意外な話にあっけにとられた長谷川さんに、担当者は新しい提案を示した。
「どうです、来年もポップアップショップを出しませんか? 同じ場所は来年5月まで埋まっていますが、2軒隣が3月からあきますから」
実績を余程高く評価してくれたのだろう。3月は春物商戦がスタートする時期である。これほどいいタイミングはない。
「今回は半年でも1年でも結構です。やってみませんか?」
長谷川さんは思わず口にしていた。
「はい。じゃあ、1年でお願いします!」
2023年3月1日、店が開いた。今回は長丁場である。店のディスプレー、運営を含め一切を販売代行会社に頼んだ。店員は毎日2人。長谷川さんは商品を店に運び、週末やゴールデンウイークなどに顔を出す程度だ。
3月の売上は100万円足らずで苦戦したが。4月は4割増、5月も上昇は続いている。まだ前年10月の勢いは戻っていないが、勢いはつき始めた。
それを見て、長谷川さんは手を打ち始めた。店舗のレイアウト変更、販売員に「Season off」商品の特徴を知ってもらうための商品情報シートの作成……。
販売代行会社からは、店舗に出て若い販売員たちに売り方を教えて欲しい、という要請が来た。長谷川流の客のつかみ方を若い販売員にたちに学ばせたいというのである。
「売上が期待値に達したら、さらに1年延長しようと思っています」
1ヶ月と1週間から始まった東京市場への挑戦。2年も続けられるようになれば、常設店を持つのも視野に入る。
そして、2023年2月に、千葉県松戸市のアトレ松戸に出したポップアップショップの業績は、JR松戸駅のすぐそばという立地もあって好調だ。
「ブランドメーカーとして何とかやっていけそうだ」
そんな自信を深めた長谷川さんは2023年春、「脱OEM」計画をスタートさせた。アパレルや問屋の注文を受けて服を縫う仕事はやめる。事業を縫製技術を活かした自社ブランド「Season off」に一本化する。
縫製業から、縫製が出来るブランドメーカーへ。ナガマサは歩みを始めた。
写真:長谷川さんも縫製作業をする。