背中を押されて 金加の1

【ダメ元でいい】
打診された羽島市の機械メーカーは渋った。そんなことを言われても、世界中にそんな機械はない。そもそも、5㎝厚の生地を縫うミシンもないのに、どうやって自動機械を作れというのか?

金井さんには腹案があった。ミシンを上下に切り離すのである。糸を送って針を上下に動かすのがミシンの上部である。ミシンの下部は下糸を供給する。2つの機能を分離してしまえば、どんなに厚い生地だってミシンで縫うことができる。

「だけどね、金井さん……」

と渋り続けるメーカーの社長に、金井さんは言った。

「ダメ元でいい。その場合もかかった費用はこちらで持つからやってみてよ」

メーカーの社長がとうとう折れた。

「そこまでおっしゃるのなら、やるだけやってみましょう。結果に責任は持てませんが」

4つの辺を自動的に縫う機械の側に立つ金井さん

世界の何処にもなかった、分厚いマットの4辺を自動的に縫う機械ができたのは1年半後である。ミシンを上下に分けるのは簡単だ。しかし、分けた上下が完全に同調して動かなければ縫えない。ミシンをお使いの方はおわかりだと思うが、ミシンの下部にあるボビンの位置が少しでも狂うとミシンは正常に動かない。上と下を完全の同調させる調整に時間がかかったのである。

この機械は面倒だったマットの端の処理を自動化しただけではない。マットの端を正確に縫ってくれるので、幅100㎝のマットにするのに、103㎝の生地を用意すればよくなった。作業の簡略化と資材の節約という二重のコストカットを生み出したのである。

完成した機械は1台約4000万円。金井さんは2台を導入した。1台だけでは、故障したときに仕事が遅れてベッドメーカーに迷惑をかける。だから予備機として必ず同じ機械を入れる。それは金井さんの経営哲学である。

「4面縫いの自動機械を見たい」

金加の工場にはそんな見学客がよく来る。客は一様に

「すごい! この機械、うちにも欲しい」

と声をそろえる。だが、導入したところは今のところない。

「やっぱり4000万円という価格が問題なんだろうね。この機械の話を聞きつけた金沢の機械メーカーが『うちなら1500万円でできる』というから任せてみたら、出来上がりはやっぱり4000万円だという。それくらい金がかかっているみたいですよ」

金井さんはこともなげにそういった。

写真:金井社長はいつもにこやかだ。

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