【幅広マシン】
話は遡るが、金加が成長軌道に乗ったのも、金井さんの発想力が引き金だった。
この仕事を始めたとき、最初に使ったキルティングマシンは新潟の取引先に譲ってもらった中古である。2.5m幅までの生地にキルティングができる国産機だった。ところが、針が折れたり糸が切れたりという事故がしょっちゅう起きた。そのたびに機械を止め、手をかけねばならない。勢い、生産性が上がらない。
「この機械、なんでこんなに具合が悪いんだ?」
当時、ほとんどのキルティングマシンは幅が130㎝か160㎝だった。ベッドの横幅はシングルで幅100㎝、セミダブルは120㎝、ダブルは140㎝だから、それに合わせたのだろう。だが、需要が増えた160㎝のクイーン、180㎝のキング用のマットはキルティングできない。そこでこの機械は130㎝幅のマシンを2台つなぎ合わせて2.5m幅まで加工できるようにしていた。
だが、元は2台のマシンだから左右別々に制御される。そのため、しばしば2台のリズムが合わなくなる。それが針折れ、糸切れの原因だった。
原因は分かった。金井さんは事故が起きないキルティングマシンの開発に乗り出す。それも、せっかくなら、より使いやすいものにしたほうがよいと、キルティングマシンの横幅を225㎝にした。
それまでのマシンでキルティング加工をした生地は全て縦に使っていた。だから大量の無駄が出た。
「生地の横幅をベッドの縦幅に合わせれば無駄がなくなるぞ!」
と金井さんは考えたのだ。
ベッドの縦方向はどれでも同じだから、マットにする際、シングルなら100㎝で、ダブルなら140㎝で横にカットすれば一切無駄が出ない。いまでは採用した会社も多いが、もとは金井さんのコロンブスの卵のような発想である。
羽島市のメーカーに発注したのはこの仕事を始めて7〜8年たった頃のことだ。もちろん2台である。特注のマシンは狙った通りの性能で稼働し始めた。数年後、自動的に生地を指定幅にカットする機能をつけ加えた。50mのロールで出荷していたのが、裁断済みの半製品を納入できるようになった。
生地の無駄を極限まで減らせる225㎝幅のキルティングマシンは、ベッドメーカーのコストダウンに貢献した。カット済みの生地も、ベッドメーカーから余分な作業を省いた。驚いたことに、1ヶ月もしないうちに、それまで取引がなかった全国のベッドメーカーから注文が飛び込み始めた。
「別に宣伝したわけでもないのに、皆さん、どこで聞きつけたのかな? でも、メーカーさんはみんな同じ悩みを持っていらっしゃったんでしょうね」
金加の飛躍的な成長が始まった。
写真:キルティング機の前で金井さんと取締役の中里みどりさん