1つは、
「それはできません」
と折角の注文を断らざるを得ないことが増えてきたことである。仕事を出していた零細な機屋の織機では織れる生地に限界があった。
もう1つは
「その納期には、ちょっと間に合いそうにありません」
と断るケースが増えたことである。傘下の機屋だけではこなしきれないほど注文が積み上がったためだ。
急成長したテーブル機屋の金加が頭を天井ぶつけてしまったのだ。金井さんがこの世界に身を置いて10年ほどが経っていた。
このままでは、もう成長はできない。さて、どうする?
「あんた、自前で工場を持ったらどうなんだ?」
悩む金井さんに、そういった人がいた。懇意になったベッドメーカーの担当者だった。
「ええ、取引先に背中を押されて、それじゃあひとつやってみるかと」
金加は自社工場を持つ機屋になった。織るのはベッドを覆うマット用の生地である。最新鋭の織機を入れ、業績は再び成長し始めた。
【そして、キルティング加工へ】
金加で織る生地は、どんな工程を通って製品になるのだろう? ふとそんな疑問を持った金井さんはベッドメーカーの担当者に聞いてみた。
金加は織り上がった生地をベッドメーカーに送る。メーカーは受け取った生地をキルティング加工の会社に送る。そこでキルティングされてマットなり、再びメーカーに送り戻される。そのマットをメーカーがマットレスを覆う袋状に仕上げ、中身を入れて完成する。
「金加さんの生地はあっちに行ったりこっちに行ったり動き回るのよ。生地からマットまで一貫生産してくれるところがあれば輸送費の分だけでも随分助かるんだが。どう、金井さん、やってみない?」
また、金井さんの背中を押す人が現れた。
こうした金井さんはキルティング加工にまで業態を広げた。その後のことは、「その2」の【幅広マシン】で書いた。金加がキルティング加工を始めるために投じた資金は約7000万円である。
「私って、お客さんに背中を押されて、というか、そそのかされて、といったほうがいいのか、とにかく、そんなことの繰り返しでした。はい、今の私があるのは私の力じゃありません。全部お客様のおかげなんです」
金井さんはひょうひょうとそう語った。
写真:エレキ、アコギ、エレアコ……音楽はいまでも金井さんの趣味だ