花を産む さかもと園芸の話 その6 アジサイ

まず、装飾花を総て取り去り、真花を露出する。この真花を押し開き、ピンセットで雄しべを取り外し、雌しべにくっつけて受粉する。微少の世界での、実に根気のいる仕事である。

最初に選んだのは濃いピンクの「グリューンヘルツ」と、白に近い花が咲く「マダム・プルムコック」だった。花が美しい「グリューンヘルツ」は、だが、弱い。「マダム・プルムコック」はあまり人気がなく、買う人が少ないから育てる人も少ない。だが、この種類は強い。奏法のいいところだけ引き継いだ美しくて強いアジサイが産まれれば、市場の評価も得られるはずだ。

そして、もう一つの狙いがあった。

「日本人が好きな桜のような淡いピンクが出せたら、と思ったんです」

絵の具で赤と白を混ぜれば、白の割合次第で淡いピンクを出すことが出来る。だが、それがアジサイでも可能なのかどうか。知っている人がいれば相談したいが、なにしろアジサイの交配を試みるのは正次さんが日本で初めてなのだ。ここはダメ元を承知で挑んでみるしかない。

「グリューンヘルツ」の花粉を「マダム・プルムコック」のめしべに。逆に「マダム・プルムコック」の花粉を「グリューンヘルツ」のめしべに。両方を同時にやるのが交配するときの常道だ。
アジサイの受粉時期は4月、5月。うまく受粉していれば11月には種が取れる。

交配はうまく行ったのか? 正次さん、久美子さんはジリジリしながら晩秋を待った。久美子さんの記憶によれば、1976年のことだった。

写真:色とりどりに咲き乱れる、品種改良されたアジサイ

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