とはいかないのが、育種の難しさであり、面白さでもある。とりあえず狙った色は出てきた。しかし、欲しいのは色だけではない。花弁の厚さ、花の形、丈夫さ、花付きの良さ、育てやすさ……。正次さんは、花をつけたアジサイの中から自分の狙いに合っているように見える8本だけを残し、残りはすべて廃棄した。
そして、販売するには挿し木で増やさねばならない。残した8本は挿し木で増える力があるか? それを確かめるには方法は1つしかない。挿し木してみるのである。これを「試作する」という。
それぞれを10本単位で増やした。出来たものを再び選別して良さそうなものだけ残す。
「確か、試作を3回繰り返したと思います」
ついに2種類だけになった。
1つは色が良かった。狙い通りの桜色が出せた。花弁に切れ込みが出来たのも目を惹いた。それに、ずいぶん大きな花弁になった。
もう1つは色が少し濃かった。花弁に切れ込みはない。丸弁と呼ばれる形である。それにずいぶん分厚い花弁になった。
2人が選んだのは、狙い通りの桜色になったアジサイである。もう一つは廃棄するつもりだったが
「だったら譲って欲しい」
という同業者が現れ、正次さんは
「ああ、いいよ」
と答えた。交配に取り組んでここまで4、5年はかかった苦労の結晶を惜しみもせず、求められてあっさりと手放してしまったのだ。
「俺はこの桜色で勝負する!」
正次さんはそう思い定めたのだった。
写真:アジサイの種と真花。その小ささをあなたの目で確かめて下さい