貰った賞状の扱いも同じだった。
「そんなん、飾らんでもいい。これ見よがしはイヤなんだよ」
だが、周囲は正次さんの思いは知らない。見たこともないフロリアード金賞の賞状を見たいのは人の常である。
「見せて、見せて」
と訪ねて来た人が口々に言う。そのたびにしまっておいた場所から出して見せていたが、とうとう正次さんも根負けしたか、いまはビニールハウスを管理する事務所に飾ってある。
それから10年後の2002年。第5回フロリアードがハールレマミーアで開かれた。今回も正次さんは群馬県に求められて数十鉢のアジサイを出品した。
「前回は金賞ですから、きっとプレッシャーはあったと思いますよ。ねえ、オリンピックで金メダルを取って次の大会に出たら、みんな金を期待するじゃないですか。で、も、正次はそんなことは一言も口に出さず、『勧めてくれた人の顔に泥を塗るわけにはいかない』というだけでした」
そして、今度は受賞ラッシュとなった。「「ジャパーニュ ミカコ」「ポージブーケスージー」「ユンクフラウ ピコティ」の3作品が金賞、「ポージブーケエレガンス」が金賞3席を得た。
のちに正次さんは、ある雑誌のインタビューに答えてこう語っている。
「でも、いまだに『これだっ!』と納得のいくものはできていません。実は、アジサイの品種の系統が理解できて『これとこれを掛け合わせれば、満足のいくものができる』という方法が見えた矢先に大病をして、しばらく現場を離れざるを得なくなってしまいました。頭の中には“理想の花”がありますから、早く、納得のいくものを作りたいと思っています」
写真:フロリアードの賞状