花を産む さかもと園芸の話 その16 チャイ式

1年目。理解できた限りで正次さんの仕事を忠実になぞった。だが、作業を始めて見ると、分からないことが次から次に出てきた。加えて、仕事の段取りにも戸惑った。目が回るほどに忙しいのに、仕事が追いつかない。

「だから、冬用に準備していたシクラメンの苗木の半分を、同業の方に買っていただきました。それにアジサイの挿し木もしなければならなかったのですが、これも半分に減らさざるを得ませんでした」

と佳子さんは振り返る。さかもと園芸の総てを取り仕切ってきた正次さんの存在の大きさを改めて思い知らされた。

だが、泣き言を言っている暇はない。チャイさんと佳子さんは仕事の手順を見直しつつ、次の年の準備に追われた。まだ正次さんのレベルにははるかに及ばない。シクラメンもアジサイも、正次さんの時代の7割ほどの数に抑えた。まだ生産量は追いつかないが、咲いた花は美しかった。

そして3年目。思い切って生産量を正次さんの時代と同数にした。

「あの年は失敗だったよ」

とチャイさんは振り返る。花の質がガタンと落ちたのである。花の病気に見舞われたのだ。

花は生長に応じて大きな鉢に移し、花と花の間隔を広げていかねばならないことは知識としては分かっていたが、いざやろうとしたらスペースがなかった。成長時期をずらし、早く咲いた花から出荷してスペースを空ける知恵がなかった。やむを得ず、密植にしてしまったことが病気の原因らしい。年間の生産計画、作業スケジュールを見直さなければならない。

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