「やっぱり自分の花が作りたい」
チャイさんがそう思いだしたのは、経営を受け継いで4年目のことである。まだ生産は安定しなかった。しかし、それまでの3年間、生産を安定させるために工夫を繰り返し、どこを改良しなければならないかは見え始めていた。それさえやり遂げれば、あとは同じ作業を毎年繰り返すだけになる。それは退屈だ。
それに、正次さんからこの事業を受け継いだ以上、少なくとも正次さんと同じレベルに立たねばつまらないではないか? 正次さんが新種を作りだしたのなら、僕も、誰も持っていない花を作りたい!
正次さんが、掛け合わせの結果を思い描きながら原種を選んで掛け合わせる慎重派だとすれば、チャイさんは
「やってみなければどんな花が出てくるか分からないだろ?」
と無駄を厭わず、思いつく限りの品種を掛け合わせてみる行動派といえる。正次さんはたった2つの品種から「ミセスクミコ」を産み出した。チャイさんは30数種類のアジサイ原種を思いつくままに選び、交配した。2011年春のことだった。
11月には種が取れ、翌春蒔いた。沢山の種からどんな花が咲くのか。全く予想がつかないまま、2013年春、さかもと園芸のビニールハウスで、新種の花が一斉に咲きそろった。
チャイさんは、咲きそろった新しいアジサイの手入れに熱中した。日に何度となく水をやる。そんなある日、不思議なアジサイに気がついた。
「ねえ、佳子、これは裏側にあるはずの本当の花も大きく咲きだしているよ。見て、見て」
違いはそれだけではなかった。
「佳子、ちょっと見てみてよ。ほら、これとこれ、昨日までは白地をパープル、ピンクのラインが縁取っていたのに、ほら、色の付いたところが広がっているんじゃない?」