観察を続けた。咲き始めのころは、白地に赤みを帯びた紫のラインや濃いピンクのラインが縁取っていた花(本当は「ガク」だが、ここでは花としておく)は、日を追うにつれてラインの幅が広がり、やがては全体がブルー、薄いピンクに変化してしまった。
形も変わった。咲き始めには本当の花(真花)が真ん中に見え、周りを花(「ガク」)が取り囲んでいた。花(「ガク」)が育ってくると本当の花がだんだん隠され、やがて外からは見えなくなってしまったのだ。真花の色は、変化したあとの花の色と同じだった。
色も形も変化する珍しいアジサイの新種が誕生したのである。
「こんなアジサイ、ひょっとしたら世界で初めて、ね」
チャイさんはこの新種を、妻の名前を冠して「KEIKO」と名付けた。ブルーとピンクの色の違いは、土の酸度による。アジサイとは、弱アルカリ性の土では赤みを帯び、酸性土壌では青みを帯びる花なのだ。
正次さんなら、ここから数年かけて試作を繰り返し、生育が安定するのを確認して商品化したはずだ。しかしチャイさんは行動派である。すぐに量産に乗り出した。
「ビジネスにリスクは付きもの、ね。待っている時間が惜しいから、すぐに市場に出したよ」
チャイさんの賭はみごとに当たった。市場で高い評価を受けただけではない。一般財団法人 日本花普及センターが催す「ジャパン・フラワー・セレクション2015—2016」で、鉢物部門の最優秀賞であるフラワー・オブ・ザ・イヤーに輝いたのである。
チャイ式園芸が軌道に乗った。
写真:表彰式に臨んだチャイさん